関西学院大が5月31日に全日程を終えた関西学生野球の春季リーグで平成25年秋以来のリーグ優勝を果たし、7日に開幕する全日本大学選手権に出場する。一昨年秋は最下位の6位、昨秋は同率4位と低迷していたチームを躍進させた原動力は4年生左腕の黒原拓未(21)。1年生春からマウンドを踏み、ポテンシャルの高さは知られていたが、勝負弱さやメンタル面の課題などで、殻を破れずにいた。伸び悩んでいた逸材が覚醒したきっかけは、今を時めく阪神の大物ルーキー、佐藤輝明(22)から浴びた痛打だった。
初めての「エース」
優勝に王手をかけて臨んだ5月25日の京都大戦(わかさスタジアム京都)。2点をリードした九回2死一塁で、本荘雅章監督(50)は今季5勝(1敗)を挙げたエースの黒原をマウンドに送った。
「頼むぞエース」という指揮官の言葉を受けた背番号11。最後は得意のチェンジアップで空振り三振にとり、人さし指を突き立てた。「皆が立ちたかったマウンド。監督に感謝です」と胴上げ投手の喜びをかみしめた。
「彼に『エース』と言ったのは初めて」と本荘監督。今季序盤は好投しても「エースに近づいた」と辛口だった。関学大OBで現役時代は通算24勝を挙げた経験から、いい球は投げるが勝ち切れなかった教え子に物足りない部分があったからだ。生まれ変わったような今季の活躍に、その思いは払拭された。
夢との距離
黒原は和歌山県海南市出身。強豪の智弁和歌山高で2年生秋からエースを務め、3年生の夏には全国選手権大会で甲子園のマウンドを踏んだ。
関学大進学後は1年生の春から主力として投げてきたが、昨秋までの通算成績は8勝15敗。この数字が、過去の黒原を物語る。勝ち越したシーズンはなく、チームが最下位に沈んだ令和元年秋は0勝2敗。ストレートの威力には定評があったが、力任せの部分もあり、少しでも調子が悪いとメンタル面での弱さが出た。