勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(238)

ホームラン王復活マニエル 猛牛打線に火を付けた

アゴのガード付きヘルメットを着用する近鉄のマニエル
アゴのガード付きヘルメットを着用する近鉄のマニエル

加藤英の「三冠王」を阻止したのは近鉄のマニエルだった。6月9日のロッテ戦で負傷してから約2カ月後の8月4日、阪急との一戦で戦列に復帰した。

◇8月4日 西宮球場

近鉄 000 010 820=11

阪急 000 203 101=7

(勝)佐藤1勝3S 〔敗〕佐藤7勝2敗1S

(本)アーノルド⑫(稲葉)平野⑭(佐藤)

4点を追う近鉄は七回、小川の中前打、アーノルドの三塁線を破る二塁打、羽田の四球で無死満塁のチャンスを迎えた。ここで西本監督は代打でマニエルを指名。マニエルはアメリカンフットボールのようなフェースガードの付いたヘルメットで打席に立った。そして2番手・佐藤の初球を右前へ2点タイムリーヒット。帰ってきた〝怪物〟の一撃に近鉄打線は大爆発した。

「まさか、あんな場面で使ってもらえるとは…驚いた」

マニエルが入院中、西本監督は時間を見つけては病院に見舞いに行った。その心に応えたい。マニエルは打った。24号で止まっていた本塁打は一気に30本を超えた。

加藤英に35本で並ばれた3日後の10月8日の西武戦(日生)で七回、鵜沢からバックスクリーン左へ36号本塁打を放った。そして翌9日、大阪球場で行われた南海戦の試合前、監督室をノックした。「1番で打たせてほしい」と申し出るためだ。西本監督はマニエルが話し出す前に、その日のメンバー表を見せた。

『1番 指名打者 マニエル』

西本監督は何もかも察していたのである。「キングを取れば気分よく働いてくれると思って1番にすえた」という。

マニエルは感動した。そして六回、山内から右翼中段へ文句なしの37号ホームランを放った。

「ボスが〝キングを取れ〟とチャンスを与えてくれた。うれしかった。だからなんとしても打ちたかったんだ」

マニエルの復帰は近鉄に再び〝命〟を吹き込んだ。

それにしても、なぜ、ヤクルトはこんなマニエルを〝放出〟したのだろう。少し時間を戻してみることにする。 (敬称略)