住民目線で伝える原発事故 温泉旅館に「考証館」

「原子力災害はみんなが向き合うべき問題」と語る里見善生さん=福島県いわき市(芹沢伸生撮影)
「原子力災害はみんなが向き合うべき問題」と語る里見善生さん=福島県いわき市(芹沢伸生撮影)

福島・いわき 「古滝屋」館主 里見善生さん(52)

東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から10年の今年3月、経営する老舗温泉旅館に「原子力災害考証館」を設けた。展示しているのは原発事故の関連資料約100点。事故で被災者が日々の暮らしを失ったことや、津波の行方不明者の捜索が遅れたことなどを住民の目線で伝えている。

「原子力災害は福島だけの話ではなく、みんなが向き合うべき問題。何があったのかを伝え、事故について考えるきっかけになる場所にしたかった」と設置の経緯を話す。だが、葛藤もあった。「計画を知り『観光地にネガティブな施設を作ると風評につながる』と話す関係者もいた」からだ。断念することも考えたが、協力してくれる人も多く実現にこぎつけた。

展示場は9階にある20畳の宴会場を改装した。原発事故以降客が減り、あまり使わなくなった部屋。全ての住民が避難した浪江町の商店街の定点写真、原発事故発生を報じる新聞などが並ぶ。津波で犠牲になった大熊町の女の子が使っていたランドセルや帽子、靴などの遺品は衝撃的だ。

これまでに約500人が足を運び、中には北海道や沖縄の人もいた。訪れた人には、時間が許す限り館主自ら展示内容の説明に当たる。畳に座って資料を示しながら、丁寧に話す内容には説得力がある。

「街並みの写真1枚でも、そこに暮らしていた人の話を聞けば、実情が分かり見え方は違ってくる。遺品に関しても、持ち主が亡くなった経緯を知ることで印象は変わるはず」と力説する。

確かな手応えも感じている。「親子で来た人が『1番大切なのは家族』と改めて気付き、防災やエネルギーなどについて話し合ってくれたりする。そんなときは、やってよかったと思う」と話す。