今東光も執筆陣に 地域の「ええ話」に歴史あり 奔走するローカル紙

東大阪新聞社の八尾柏原支社で編集作業を行う小野元裕社長=大阪府八尾市(西川博明撮影)
東大阪新聞社の八尾柏原支社で編集作業を行う小野元裕社長=大阪府八尾市(西川博明撮影)

小さな話題でも取材に飛んで参ります-。大阪府東大阪市に本社を置き、隣接する八尾市や柏原市の中河内エリアの地域情報を伝えてきた「東大阪新聞」が来年、創刊90年を迎える。かつては作家の今東光(こんとうこう)も執筆陣に加わっていた老舗地域紙だ。インターネットメディアの台頭で、ローカルジャーナリズムの担い手である地域紙も苦戦を強いられているが、東大阪新聞は、地域の人と人をつなぐ「ええこと」を伝え続けようとしている。

月2回発行でどんな話題でも

都道府県内の一部地域を発行対象エリアにする地域紙、東大阪新聞は毎月1、15日の2回発行を続けている。産経新聞などの一般紙と同じサイズで、2~4ページで構成し、モノクロ印刷する。

「気が付いたら中国大陸を38万キロ走っていた」「八尾の大輝製作所、新工場竣工(しゅんこう)」「母の日に笑い文字でおもい伝える」「柏原市役所新庁舎完成」

地域経済や政治の話から、市民の横顔まで幅広く、丁寧に伝える。目玉企画として続くのが「明日の有名人」。まだ、広く知られているわけではないが、地域で頑張る人たちを紹介する。会社敷地内に巨大な像をつくった経営者や、「47歳の女性を治療します」と掲げる整骨院院長ら、ユニークな人物を取り上げてきた。

「私が社長になってからは、事件・事故などの話は一般紙にお任せしています。一般紙がなかなか取り上げない『ええ話』を載せるのが編集方針」と話すのは 平成24年秋から6代目社主を務める小野元裕社長(51)だ。

インターネットを通じて情報があふれる現代に「ストレスがたまり、生きづらい人もいる。読んでほっこりする話を載せたい」と奔走する。

地元中学校の副読本になったことも

八尾市の市史編纂(へんさん)の調査によると、昭和7~8年ごろ、東大阪新聞の初代社主、三栖(みす)元(げん)氏が八尾で地域紙「菊水日報」を創刊したのがルーツ。戦後に東大阪新聞として復刊された。

府内には東大阪新聞のほかにも、地方・地域紙が十数紙発行されているとされるが、その中でも最も古い歴史を持つという。

昭和20年代に連載された記事「河内史談」は八尾の地域史などを紹介して好評を博した。執筆メンバーには、大阪府八尾市の寺院「天台院」住職を務めながら、「悪名」など河内を題材にした作品を多く残した直木賞作家、今東光らも名を連ねた。

河内史談はその後、書籍にまとめられ「八尾市の中学校副読本としても一時期読まれていた」(小野社長)といい、東大阪新聞はローカルジャーナリズムの担い手としての役割を果たしてきた。昭和40年ごろは日刊紙として近鉄沿線で駅売りされるほどよく読まれたという。

東大阪新聞のカバーするエリア
東大阪新聞のカバーするエリア

しかし、インターネットが普及し、新聞がほかのメディアとの競合を迫られる中、今の発行部数は千部になった。社員も小野社長と妻の2人だけ。このほか、業務委託する記者から送られてきた記事で紙面が出来上がるが、小野社長は取材記者やカメラマン、紙面構成を考える編集長を兼ねるだけでなく、広告を取る営業、新聞を購読してもらう販売、新聞を郵送する配送手続き…と一人で何役もこなす。

「公私混同でないと、この仕事は務まりませんね」

取材をした後に購読者になってもらうように頼んだり、年賀広告特集号や夏の暑中見舞い特集号では掲載企業に広告をお願いしたり、地道な営業を続けているが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で「広告費収入は減った」と明かす。

動画配信にも挑戦

コロナ禍の影響だけではない。新聞を取り巻く環境は年々、厳しくなっている。地方・地域紙に詳しい武蔵大(東京)の松本恭幸教授(地域メディア論)は、インターネットメディアの台頭によって、全国紙を含めた新聞発行部数が減少しているといい、「毎年のように全国各地の地方・地域紙が休刊、廃刊に至っている」と指摘する。


大阪・中河内エリアでは「東大阪新聞」のほか、「河内新聞」といった地域紙もある=東大阪市役所(西川博明撮影)
大阪・中河内エリアでは「東大阪新聞」のほか、「河内新聞」といった地域紙もある=東大阪市役所(西川博明撮影)


そのうえで「全国各地で地方・地域紙がなくなれば地元のニュースを発信する担い手がいなくなる」と懸念。各紙の経営体力が落ちる中で、各社が新聞発行を続けるためには、各新聞社が持つブランド力や読者層などの資産を生かした「新聞以外の新規事業の開拓が必要」とも指摘した。

東大阪新聞も動画配信で新聞記事を紹介するなど、新たな試みに挑戦しているが、一方で、小野社長は新聞発行にこだわり続ける。 「あの人はこんなことをしていたんや」「あの店はこんな物を売っていたんや」「あの会社はこんな仕事をしていたんや」と地域を知るための手段として役立つことに疑いはない。

「地方紙は地域に暮らす人にとって欠かせないコミュニケーションツール」と言い切った。(西川博明)

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