【書評】『石平の新解読・三国志「愚者」と「智者」に学ぶ生き残りの法則』石平著 コロナ禍生き抜くために - 産経ニュース

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書評

『石平の新解読・三国志「愚者」と「智者」に学ぶ生き残りの法則』石平著 コロナ禍生き抜くために

中国出身の評論家である石平氏が『三国志』についてつづった本書は、「今を生きるヒント」の宝庫である。コロナ禍という乱世をいかに生き抜くべきかという課題に対し、魏・呉・蜀という三国が覇権を争った「大乱世」の時代の知恵に学ぼうという一冊といえる。

『三国志』といえば劉備や曹操、諸葛孔明らが主人公であるが、知名度の低い登場人物の生きざまの中にこそ、多くの教訓が含まれていることを石平氏は指摘する。

『三国志』には賢臣も出てくれば、愚者も登場する。公平を重んじる者もいれば、私欲の強い者もいるし、口では立派なことを言っても行動の伴わない者もいる。そんな彼らが、どのような生涯を送っていくことになったのか。石平氏は中国出身者ならではの視点を交えながら、鋭く読み解いていく。

例えば、蜀の国政を支えた蔣琬(しょうえん)という重臣がいた。諸葛孔明の没後、政治の中枢を任されることになった蔣琬には、「ポスト孔明」としての重責がのしかかった。周囲からは不安や心配の声があがった。

そんな中で蔣琬は、手柄を急ぐことなく、淡々と着実に政務をこなした。部下から「前任者である孔明に及ばない」と批判された際にも、蔣琬は立腹することなく、それをあっさりと認めたという。

その何事にも動じない姿勢は、周囲に安心感を与えた。石平氏は蔣琬についてこう看破する。「己の限界に対する冷静なる認識と、為政者としての謙虚さがあるのであろう」。孔明亡き後も、蜀の国は約30年間にわたって泰平の世を築いた。

愚者の例に学ぶ点も多い。呉の国の沈友(しんゆう)という参謀は、幼少時から天才の誉れ高く、孫権の側近となってからも、議論をすれば敵なしという存在だった。しかし、協調性に欠け、「われこそは正義」とばかりに周囲の高官をやり込めるその姿は、四方から反感を買った。結局、沈友は部下から無実の罪を着せられ、冤罪(えんざい)によって命を奪われた。彼を弁護しようとする者は一人もいなかったという。

本書の読者は、自らの姿や周囲の友人知人のことをそれぞれ脳裏に思い浮かべながら、ページをめくることになる。(PHP研究所・1760円)

評・早坂隆(ノンフィクション作家)