都会での存続自体がロマン ローカル「汐見橋線」の旅情

そして昭和45年、全ての電車が汐見橋駅-岸ノ里駅(岸里玉出駅の前身)間で折り返すようになり、60年には立体交差事業で高野線の線路が分断。汐見橋線は完全に枝線と化した。

高架化された汐見橋線の岸里玉出駅を出発し、カーブを曲がると単線から複線に変わる。所要時間は約10分の路線を30分間隔で電車が折り返すため、途中のすれ違いはほぼ起きない。オーバースペックとなった線路が、交通の大動脈だった頃をしのばせている。

「うめきた直通」ならずも

南海電鉄によると、汐見橋駅の一日当たりの利用客数は37年度に4528人を記録したが、一昨年度は642人。近年わずかに増加したものの、新型コロナ禍が影響し、昨年度は576人に落ち込んだ。

もっとも、汐見橋線がローカル線からの脱却をひそかに期待された時期もあった。JR西日本と南海が共同運行し、JR大阪駅北側のうめきた地区にある「大阪駅」から「西本町駅」を結ぶ鉄道新線「なにわ筋線」(計7・4キロ)の計画をめぐり、難波付近で南海本線に接続する「南海ルート」について地下化した汐見橋駅でつなぐ構想があったのだ。

だが、平成29年5月に発表された事業概要で、新今宮駅での接続が決定。西本町駅の南側で線路を分離させ、令和13(2031)年春の完成を目指すことになった経緯がある。

芦原町駅近くの踏切を走行する岸里玉出駅行きの電車=5月26日、大阪市西成区(寺口純平撮影)
芦原町駅近くの踏切を走行する岸里玉出駅行きの電車=5月26日、大阪市西成区(寺口純平撮影)

コロナ禍の影響を受ける鉄道各社は不採算事業の見直しを進めているが、汐見橋線が廃線となる可能性について、南海電鉄の広報担当は取材に「予定はない」と答える。汐見橋駅では4月、構内のトイレがリニューアルされたほか、老朽化のため撤去されていた沿線観光案内図が5月28日、現代風のアレンジを加えて5年ぶりに設置された。

利用客が減ってもなお、南海側は利便性の向上や観光のPR策を講じており、路線は当面は存続することになりそうだ。(岡嶋大城)

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