【美村里江のミゴコロ】アブラビレを追って - 産経ニュース

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美村里江のミゴコロ

アブラビレを追って

大河ドラマ「青天を衝け」の徳信院役で、気に入っている着物の合わせがある。光沢ある金茶の着物に、白地にパステルカラーの魚小紋の帯である。特にこの帯には、衣装合わせのときから見入ってしまった。

他の方にも好評で、20代の女性スタッフ、80代、50代の指導の先生方とお話ししていて「はて、このすてきな帯の〝魚〟はなんぞや」という話題になった。

「縁起物でタイかな」「おひげもありますね」「じゃあ竜になるコイかな」

という流れの後、私が「あ、アブラビレがある! 渓流魚ですかね」と興奮して返すと、皆さん「?」と固まってしまわれた。

それもそのはず。この「アブラビレ」、プロの作画でも省かれていることがあるのだ。

例えばグルメ漫画で「時知らず(春~夏に川に戻ってきた季節外れのおいしいサケ)」が紹介されたページ。または妖怪漫画にイワナが化けた妖怪が出てきて、正体がバレて川に帰っていくとき…。

見るポイントは背びれと尾ひれの間である。ここに肉状の小さなひれがあれば「サケ科」ということになる。おなじみの魚ではヤマメ、アマゴ、イワナ。それらが海に行って戻ってきたサクラマス、サツキマス、アメマスやドリーバーデンなど。

夏の風物詩、アユにもアブラビレはあるが、彼らは岩についたコケを食べているので口先が柔らかい。対してサケ、マスは肉食で口先が硬いので釣り糸を切られやすく、また掛かったときも「カツン」と硬質な感触が手に伝わってくるのだ。

ということで、渓流釣りをやる人間は大きな違いとして注視する。しかし他の場面ではあえて触れる必要もなく、漫画などでは小さすぎて描き損じのように見られてもいけないし、ご存じの上で省くこともあるだろうと思う。

一方で帯の図案も綿密なものに違いなく、きっと意味があってアブラビレをつけたのではないだろうか。尾をうねらせているポーズ上、確かにここに突起があった方が見栄えがいいとも感じる。架空の美しい魚、ということで何も問題はない。

それでも、見つめていると私の渓流釣り好きの血が騒いでくる。「きっと口先は硬いな」「この魚体なら1メートルも夢ではない…」。お気に入りの帯の柄を「釣ってみたい」変な心持ちになるのだった。