勇者の物語

お得意様の南海戦 近鉄「幸運」の前期V 虎番疾風録番外編236

辛うじて逃げ切り。前期優勝で宙に舞う近鉄・西本監督=大阪球場
辛うじて逃げ切り。前期優勝で宙に舞う近鉄・西本監督=大阪球場

■勇者の物語(235)

前期の近鉄に〝幸運〟があったとすれば、それは優勝をかけた残り3試合がすべて南海戦だったことだろう。

「野村騒動」で野村、江夏、柏原を放出し、大きく戦力を落とした広瀬南海との対戦成績はここまで8勝1敗。

◆6月24日 近鉄7―5南海(藤井寺) 阪急が日本ハム戦をエース山田で落とし「首位」が入れ替わる。

◆同 25日 近鉄10―2南海(日生) 平野の3ホーマーなど12安打10得点で圧勝し「王手」をかける。

◇6月26日 大阪球場

近鉄 010 000 000=1

南海 000 100 000=1

(九回時間切れ引き分け)

近鉄は二回、梨田のタイムリーで1点を先制したが、四回に同点に追いつかれたあとは佐々木―金城の継投に抑え込まれていた。八回裏、2死一、二塁で南海の代打・阪本の打球は快音を残して中前へ。中堅・平野が猛ダッシュ。そして本塁へノーバウンドの好返球で二塁からホームを突いた定岡をタッチアウト。絶体絶命のピンチを切り抜けた。

「走者がどこを走っているのか分からなかった。梨田のミットめがけて…アウトになれ!と叫んで投げたよ」

ベンチに戻ってきた平野を仲間たちが歓喜で迎えた。

九回2死一塁、村田のシュートに山下のバットが空を切る。午後10時4分、近鉄の前期優勝が決まった。西本監督の体が8度宙に舞った。

「胴上げの経験は何度もあるが、今度が一番うれしい。マニエルおじさんが残してくれた遺産を道楽息子が食いつぶしてフラフラになってしもた。もし、負けとったら、自分をどう処したらええか考えとったわ」

「辞任」を覚悟しての戦いだった。

一歩及ばず…。梶本監督は宝塚市仁川の自宅で心境を語った。

「いままで新米の監督を助けてみんな本当によくやってくれた。今すぐ電話で、いや、一軒一軒訪ねて家族にお礼を言いたい気分や。近鉄は優勝するにふさわしいチームやった。でも後期は阪急の野球を見せる」

梶本監督の律義さが出た言葉。そして南海の3連敗を聞かれると―

「まぁ、いまさら南海に勝ってくれ―というのも虫のええ話やしね」と少し笑った。(敬称略)

■勇者の物語(237)

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