【鑑賞眼】ホリプロ「メリリー・ウィー・ロール・アロング」  考えさせられる「成功」の意味 - 産経ニュース

メインコンテンツ

鑑賞眼

ホリプロ「メリリー・ウィー・ロール・アロング」  考えさせられる「成功」の意味

左からジョー(今井清隆)、ベス(昆夏美)、フランク(平方元基)チャーリー(ウエンツ瑛士)、メアリー(笹本玲奈)=撮影・岩田えり(ホリプロ提供)
左からジョー(今井清隆)、ベス(昆夏美)、フランク(平方元基)チャーリー(ウエンツ瑛士)、メアリー(笹本玲奈)=撮影・岩田えり(ホリプロ提供)

「成功者」を描いた物語は数多いが、仲間とともに成功することはかくも難しく、また、成功の形はこうもさまざまなのか。そんなことを思わせるのが、日本で8年ぶりの上演となったミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング」だ。

主人公は、作曲家としてブロードウェイで頭角を現した後、ハリウッドの映画プロデューサーに転身したフランク(平方元基)。豪邸で若い俳優に囲まれてパーティーを開く40歳の成功者だ。しかし、ベストセラー作家ながら現在はアル中のメアリー(笹本玲奈)がパーティーをめちゃくちゃにしたと思えば、妻のガッシー(朝夏まなと)との不仲も明るみに。決して順風満帆な人生でないことが分かってくる。

なぜこんな風になってしまったのか。物語は謎解きをするように順に過去にさかのぼっていき、「未来」を変えることになってしまった8つの象徴的なシーンを再生していく。永遠の愛を誓った元妻、ベス(昆夏美)との離婚訴訟、大物プロデューサー、ジョー(今井清隆)と、その妻だったガッシーとの出会い、そしてフランクの原点ともいえるメアリー、チャーリー(ウエンツ瑛士)が出会い、3人で世界を変えることができると希望に燃えるシーンで物語は幕を閉じる。

メアリーを演じた経験を持つマリア・フリードマンによる新演出版は、登場人物の描かれていない場面も埋めていく丁寧な仕上がり。未来で描かれたキーワードが、過去のエピソードから発掘される瞬間、つながった、と謎解きに成功した気持ちよさがある。

それでありながら全体を通して伝わってくるのは、過去を変えることができない切なさである。過去に向かってどんどん登場人物の「希望」が増えていくのがほろ苦い。成功者の代表のようなフランクが抱える後悔は、成功が必ずしも幸せをもたらすものでないと教えてくれるし、たばことアルコールに依存するメアリーも、ベストセラー作家として成功した人物だ。〝遅咲き〟のチャーリーは劇作家としてピューリッツァー賞を受賞したところだが、彼が今、幸せでいるかは作中では描かれない。

平方はスマートなプロデューサーから夢多き青年までを器用に逆回転。出ずっぱりだが、どの時代も魅力的だ。ウエンツは最初から最後まで(この作品では今から昔まで)、かたくなで不器用な人物を演じた。皮肉が効いた1幕のソロ「Franklin Shepard,Inc.」では高い技術を見せた。

そして、もっとも驚いたのが笹本だ。アル中の振り切った演技から純粋な青春時代まで、振れ幅の大きい役を演じながらも、フランクへの恋心という一本の芯を貫いた。この3人が、実年齢でも同い年というキャスティングも心憎い。敵役ともいえる朝夏の強烈な存在感も効いている。スティーブン・ソンドハイムの楽曲は難易度は高いが、物語に寄り添い、何度でも聞きたくなる魅力にあふれる。

唯一の難点は、タイトルが長く覚えにくい点。「あの頃の僕たち」という副題がついてはいるが、何とか工夫の余地はないものか。

31日まで、東京・初台の新国立劇場中劇場。03・3490・4949。愛知、大阪公演あり。(道丸摩耶)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。