話の肖像画

演出家・宮本亞門(63)(11)おふくろから受け取ったバトン

僕が大学1年生のときに、学校でやったミュージカル『ピピン』を母が観に来たとき、僕がドキドキして最初の歌を歌い出すときに、「パンパンパンパン」って8回も大きな拍手をしてくれた。学校の小さなスタジオで、周りがシーンとしているときですよ。僕はちょっと恥ずかしかったけれど、胸にギュッときましたね。この人(母)は周りの目なんか気にせず、僕を勇気づけてくれたんだなって。それから僕もおふくろを見習って、他の舞台を観にいったときは必ず一番先に大きな拍手を送ることにしています。

《宮本さんの自宅には神棚があり、須美子さんの写真が飾ってある。毎日のあいさつは欠かさない》

亡くなってからもずっと見守られている気がします。僕が不安なときには特にそう。つらくなると母を思い出して「いいじゃない。あなたがんばっているわよ」と声を掛けてくれるだろうって、勝手にイメージしています。

母は持病を抱えながら、「一秒でも長く生きたい」と言い続けました。亡くなったときの年齢(64歳)に近づき、がんにもなった僕にはあのころの母の気持ち、苦しみがよくわかるようになりました。精いっぱい生きることも母からの「バトンタッチ」です。(聞き手 喜多由浩)

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