欲求のまま与えるなら 子供は確実に不幸になる 鹿間孝一

18世紀のフランスの思想家、ジャン=ジャック・ルソーは教育論「エミール」(岩波文庫)の中でこう語っている。

「子どもを不幸にするいちばん確実な方法はなにか、それをあなたがたは知っているだろうか。それはいつでもなんでも手に入れられるようにしてやることだ」(今野一雄訳)

茨城県境町の一家4人殺傷事件で逮捕された岡庭由征(よしゆき)容疑者(26)は、16歳の時に女子中学生と小学生の女児を刃物で刺す連続通り魔事件を起こしている。「人を殺したかった」「女性を襲うと性的興奮を感じた」などと供述し、さらに猫を殺害するなどの残虐性も明らかになったが、刑事罰を受けずに保護処分となり、医療少年院に送致された。

少年犯罪の低年齢化と凶悪事件が相次いだことから、刑事処分の対象年齢が「14歳以上」に引き下げられていたのに、更生を促す教育的配慮が優先された。岡庭容疑者は医療少年院を出所した翌年に再び凶行に及んでいた。

18~19歳の厳罰化と実名報道を解禁する改正少年法が成立した。今度こそ法の厳格な運用によって、抑止力になることを期待したい。

一方で岡庭容疑者の生い立ちからは家族の〝甘やかし〟が浮き彫りになる。

小学5年で父親にパソコンを買ってもらい、アダルト系や猟奇的なサイトを閲覧していた。さらに「ナイフをコレクションしたい」という息子に父親は自分のクレジットカードでの購入を許した。自宅からはサバイバルナイフなど数十本が見つかった。危険物の硫黄を貯蔵している容疑でも逮捕されており、爆弾や毒ガスを製造する実験室のようだったという。

わが子が世間を騒がす事件を起こすと、親は「うちの子に限って…」と絶句し、「どうしてこんなことになったのかわからない」と頭を抱えるが、自分が種をまいて育てたことに気づいていない。いや、気づきたくないので目をつぶっていたのではないか。

子供が求めるままにしてやると、歯止めが利かなくなり、やがてゆがんだ欲望が芽生える。数多くの箴言(しんげん)を残したコラムニストの山本夏彦さんも「欠乏がないと人間は堕落する」と言っている。

今回の事件は神戸の「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)事件」を思い出させる。凶行の連鎖を断つために、今こそルソーの言葉をかみしめなければならない。

しかま・こういち 昭和26年生まれ。社会部遊軍記者が長く、社会部長、編集長、日本工業新聞社専務などを歴任。特別記者兼論説委員として8年7カ月にわたって夕刊1面コラム「湊町365」(産経ニュースでは「浪速風」)を執筆した。

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