コロナ その時、

(30)ワクチン接種 見えぬ計画 2021年2月1日~

米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンが2月14日に国内で初承認され、ワクチン接種への道が開けた。ただ、医療体制は逼迫し、緊急事態宣言発令から1カ月後に「必ず事態を改善させる」としていた菅義偉首相は宣言延長に追い込まれた。政権や東京五輪を揺るがす醜聞が相次ぎ国民の不信感は募った。

米製薬大手ファイザー製の新型コロナウイルス感染症ワクチン約40万回分を載せた航空機の第1便が2月12日、ブリュッセルから成田空港に到着した。

同社製ワクチンは既に海外で承認されており、日本政府は国内での審査を簡略化する特例承認の制度を適用。ワクチン到着から2日後の14日にスピード承認された。接種の優先順位について政府の分科会は9日、医療従事者▽高齢者・基礎疾患のある人▽その他の一般人、の順とすることを決定。17日から医療従事者約4万人への先行接種が始まることになった。

■ファイザー製ワクチン第1便/NYレストラン店内飲食再開 「コロナをめぐる動き」グラフィックを見る


ファイザーに続き、英製薬大手アストラゼネカも5日、新型コロナワクチンを厚生労働省に承認申請したと発表した。

だが、国内の医療は逼迫(ひっぱく)状態が続いた。新規感染者数は減少傾向となる一方、重症化による死者が100人を超す日もあり、10日には当時最多となる121人に及んだ。13日は新型コロナでの死者が国内で初めて確認されてから1年。全国の累計は15日に7000人を超えた。

政府は2日、7日が期限となっていた緊急事態宣言を栃木県をのぞく10都府県で1カ月延長し、飲食店の取引先などに支給する一時金の上限額を40万円から60万円に引き上げると決定した。

国会では3日、新型コロナ対策を強化する特別措置法と改正感染症法が成立。宣言に至らない段階で休業などが命令できる「蔓延(まんえん)防止等重点措置」を新設し、13日に施行された。

ただ、規模の大きな飲食店の間では、一律の協力金ではしのげないとの不満の声も根強く、関係者から「大手でさえつぶれる恐れがある」との声も聞かれた。

世界を脅かす権威主義国家

米国では東部ニューヨーク市でレストランの店内飲食が約2カ月ぶりに再開されるなど、明るいニュースが話題に。バイデン米大統領は16日、中西部ウィスコンシン州での対話集会で、「7月末までに全国民にワクチンを行き渡らせる」と宣言。ワクチン接種を急ピッチで進めたことが、経済活動の再開を後押しした。

このころ世界では、権威主義国家が民主主義的価値観を脅かす現実を知らしめる出来事が相次いだ。ミャンマーでは1日、2020年11月の総選挙で不正があったと主張する国軍がクーデターを起こし、与党・国民民主連盟を率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相を拘束。同日、中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で日本の主権を侵害し続ける海警局に武器の使用を認めた海警法を施行した。

ワクチン、スケジュール混乱

自粛を続ける国民をよそに、大きな混乱が相次いだ。スマートフォン向け接触確認アプリ「COCOA(ココア)」で、利用者の約3割が使うアンドロイド版が約4カ月にわたり、陽性者との接触通知が届かない不具合があったことが3日発覚。杜撰(ずさん)な運用で、アプリの信頼性は一気に失われた。

同日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が日本オリンピック委員会(JOC)の会合で、「女性が入る理事会は時間がかかる」と発言。「女性蔑視だ」とボランティア辞退などの抗議が相次ぎ、森氏は12日に辞任を表明した。五輪はコロナ禍に組織委トップの不在も重なり、視界は不明瞭さを増した。

さらにコロナと関係ないスキャンダルが政権を襲った。総務省は3日、首相の長男が勤める放送事業会社「東北新社」から同省幹部が接待を受け、国家公務員倫理法違反にあたる可能性があるとして調査を開始した。首相は国会で自身の関与を否定したが、放送事業の許認可で不正があったのではないかとの疑惑が浮上。総務審議官など同省幹部らが後に懲戒処分を受ける事態に発展した。

待望のワクチンが日本に到着し、医療従事者に先行接種されることになったが、自治体への供給や高齢者への接種のスケジュールは不明確で、河野太郎ワクチン担当相は16日の記者会見で「おわびしなければいけない」と陳謝した。

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