ビブリオエッセー

忘れることもまた成長 「まいごのどんぐり」松成真理子(童心社)

今日から絵本を題材にした4作品を掲載します。太成学院大学(堺市美原区)人間学部で認定絵本士の養成講座を受講した在学生と卒業生、そして担当講師によるエッセーです。絵本は想像力の美しい結晶。読者の想像力も試されます。

時は止まることなく進んでいく。止まらないから動物や植物、そして人は成長する。一方で時とともに失われていくものがある。そこには忘れたくないことも、すぐ忘れたいことも…。決して後戻りはしない。

この絵本『まいごのどんぐり』は主人公の少年、コウくんとお気に入りのどんぐりの物語だ。コウくんはどんぐりのお尻に「ケーキ」と名前を書いた。話はケーキの視点で語られる。

コウくんにとっては一番の遊び相手だった。しかし、ある日、コウくんはうっかりケーキを落として見失う。それからのコウくんは来る日も来る日も必死になって探したが結局、見つからない。時は過ぎ、やがてコウくんの頭からケーキの存在は遠のき、消えていった。

私にも無くしたくないのに無くしてしまい、忘れてしまったものがある。小学生の頃、友人からもらった一本のペンだ。友人のお気に入りで毎日使っていた。レトロ感があって、私は「カッコいいな」を繰り返していたが、友人が引っ越すことになり、譲ってくれた。

当初は肌身離さず大切にして毎日使うつもりだった。が、なかなか使いこなせずペンケースに入る大きさでもなかったため、いつしか使うのをあきらめた。気がつくとなくなっていて、その後、忘れてしまった。この絵本をきっかけにそのことを思い出した。

時は止まらない。そして生き物は成長する。どんぐりは大木になり、コウくんは大人になった。忘れてしまうことも数多い。いつの日か思い出す日が来るまで。

誰しも子供のままではいない。『まいごのどんぐり』は出会いと別れの物語でもあった。

大阪府吹田市 松下翔哉 20

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