話の肖像画

演出家・宮本亞門(63)(8)演劇に「居場所」が見つかった

20歳の頃。舞台で
20歳の頃。舞台で

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《1年近くの「ひきこもり」生活から抜け出し、高校3年生の1学期から学校に復帰することができた。ゼロからの再スタートを切る》


高3の夏になったころ、(玉川)大学の演劇専攻の学生が演じた『オリバー』という芝居を観(み)たのです。僕はずっとミュージカルが好きだったから「こうしたらもっと楽しいな」なんて感想をちょっと、暑中見舞いのはがきに書いて、演出を担当した先生に送りました。その先生は僕の入学試験で面接を担当してくれた方で、高等部の演劇部の面倒も見ていた方です。

「生意気なことを書いて怒られるかな?」って心配していたら、先生から連絡があって、「舞台が好きなの? (2学期が)始まったらいらっしゃい」と喜んでくださった。そして、2人だけでランチをご一緒することに。僕が「実はミュージカル好きなんです」というと、先生は「どんな作品が好きなの?」と聞かれました。僕がアメリカのミュージカル映画『ゴッドスペル』を挙げると、先生も「あれは良かったねぇ」とすごく僕の話を認めてくださったのです。


《『ゴッドスペル』は新約聖書の挿話をもとにしたミュージカルの映画化作品。宮本さんは東京・有楽町の映画館で観ていた》


忘れもしません。1人で観に行ったら、お客さんが5、6人しか入っていない。そのうちの2人が外国人で、ゲラゲラ笑っているのです。僕は英語が分からなかったから、どこで笑えばいいの? って(苦笑)。でも、すごく感動したことは覚えています。

その話を先生にしたら、「面白そうだね。(高等部の)演劇部へ持っていったらどうだろう」。そして「よかったらキミも(演劇部に)入れよ」って、勧めてくださったのです。


《高校の演劇部に誘ってもらったら、いろんなことがトントン拍子に》


早速、僕は演劇部の部室を訪ねて、『ゴッドスペル』演劇化のアイデアを懸命にしゃべりました。そしたら、「じゃあ、キミがやれよ」って。

僕は高3の途中から演劇部に入部。いつの間にやら、高等部の学園祭で『ゴッドスペル』の上演が決まり、僕が主演(キリスト役)と振り付けを担当することになってしまったのです。そのとき、おふくろに連れられて子供のころからずっと見ていたレビューショーやミュージカル映画のシーンがとても参考になったと思います。

学園祭出演の話を両親にしたらビックリ。ちょっと前まで「ひきこもり」だった僕ですからね。おふくろなんて「そんなことしたらアンタ、死んじゃうんじゃない?」と本気で心配していましたよ。

学園祭当日、会場の視聴覚室はギュウギュウ詰めの満員になりました。学園祭史上、初めて生バンドの演奏を入れたことなどが話題になっていたのです。僕は懸命に全身でキリスト役を演じました。するとラストで死んでゆく姿に、みんなが大感動して泣いているではありませんか。作品は学校から賞をいただき、僕は卒業式で答辞を読みました。1年近く引きこもっていた僕がですよ。何と寛大な学校でしょう(苦笑)。

何をやっても「嫌われるんじゃないか」と怖かった僕に、やっと「居場所」ができたのです。(聞き手 喜多由浩)

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