話の肖像画

演出家・宮本亞門(63)(7)いろんな話を医師に、解放された心

青少年期は心が折れやすかった
青少年期は心が折れやすかった

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《高校時代のひきこもり生活は1年近く続いた》

自室ではクラシックや洋楽のレコードを繰り返し聴いたり、仏像の写真を見るだけ。あるとき〝事件〟が起きました。酒に酔った父親が母親を大声で怒鳴りつける様子がドア越しに聞こえてきたのです。僕は思わず部屋を出て、おやじを止めにかかりました。ところが、おやじは宮本家の家宝の日本刀を持ち出して僕に迫ってくる。普段は優しい人なんだけど、酒を飲むと人間が変わってしまう。逃げ出した僕がトイレにこもったら、ドア越しにグサッ、グサッと日本刀を突き出してくるではないですか。おふくろの「やめて!」という叫び声。僕も怖くなって泣き出しました。

〝トイレ事件〟の後のことです。おふくろが僕を深夜、自宅近くの公園に連れ出した。「どうして学校に行かないの?」とおふくろ。「行きたくないんだよ、いや、どうしても行けないんだ」と僕…。「じゃあ、学校には行かなくてもいい。その代わりに病院へ行ってちょうだい」とおふくろは言いました。

学校に行かなくていいのだったら、こんないいことはない。僕は病院へ行くことを承諾し、おやじがあれほどこだわった「慶応」の付属病院の門をくぐることになったのです。学校と病院では、ちょっと違いましたけどね(苦笑)。

《「精神神経科」の先生はとても優しかった》

僕を診てくれた先生はとても親しげに声を掛けてくれました。「君の話を聞かせてくれないか。趣味は何だろう?」ってね。小学生のころから好きだった仏像鑑賞の話を懸命にしました。月光菩薩がどうだとか、あそこのお寺には何があるとか…。先生は「面白いねぇ。もっと話してよ」と促します。僕の話に興味をもってくれたのがうれしくて、ミュージカルの話や学校の話、つらかった過去の経験など、いろんな話をしました。最初は「この話はダメかな?」「否定されるかも」と身構えていたのですが、先生は相変わらず「君の話は面白いねぇ」って。すごくリラックスできたと思います。