【ビブリオエッセー】愛しく大切な時間がそこに 「47都道府県の純喫茶-愛すべき110軒の記録と記憶」山之内遼(実業之日本社) - 産経ニュース

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愛しく大切な時間がそこに 「47都道府県の純喫茶-愛すべき110軒の記録と記憶」山之内遼(実業之日本社)

「純喫茶」とは「純粋にコーヒーや紅茶などを提供するだけ」の喫茶店のことらしい。チェーン店は含まないことが多い。決まった定義はなく「シャンデリアなど内装が豪華」で「ミルクセーキやクリームソーダがある」と書いてあり、大きくうなずいだ。1981年のピークから減少の一途をたどっている。

当時20代だった山之内さんは全国を歩き、そんな純喫茶を3800軒くらい訪れたそうだ。耳を疑いたくなる数字だが、そのうち110軒が本書に紹介されている。著者いわく。本書はそれぞれのお店にあるドラマチックな物語のかけらを拾い集めたもので、単なる「ガイドブックでも純喫茶の研究本でもありません」。

長野県のある店のマスターは言った。「喫茶店は時間と空間をドリンクに加えて提供するんだ」と。店内の写真からは積み重ねた歴史や雰囲気だけでなく、流れる音楽やコーヒーの香りまで感じられそうだ。

純喫茶の何がそこまで著者を惹きつけたのだろう。おそらくマスターの人柄やお客さんとの会話まで店に来ないと味わえないすべてのものがたまらなく魅力だったに違いない。

実は著者は2013年の本書刊行直後に不慮の事故で帰らぬ人となった。私の手元にあるのは昨年6月に出た新装版だ。2013年以降に閉店した店も含めて、当時の110軒すべてが「記録と記憶」として掲載されている。

コロナ禍による外出自粛、飲食店の時短営業や休業などが続いている。担当編集者はあとがきで、この状況下で改めて大切なお店の存在や人と会うことの意義を感じていると熱く語っていた。同感だ。かなわぬ夢だが、著者行きつけの純喫茶でコーヒーカップを片手に著者の積もる話を聞き、なにより続編を読みたかった。

東京都練馬区 ふくぽん 47

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