建設現場でアスベスト(石綿)を吸い、肺がんなどの病気になった元労働者と遺族らが損害賠償を求めた裁判で、最高裁が国と建材メーカーの賠償責任を認める判決を言い渡した。
石綿被害をめぐる集団訴訟は平成20年以降、各地で起こされ原告は約1200人に上る。一連の訴訟における最高裁判決は今回が初めてとなった。菅義偉首相は18日、原告・弁護団と面会し「真摯(しんし)に反省し、政府を代表し、お詫(わ)び申し上げる」と謝罪した。
初の訴訟となった20年からこの日の判決まで13年を要した。被害者にとってあまりに長い年月だ。判決翌日に首相が謝罪するぐらいなら、なぜ裁判にこれだけ長い時間を要したのか。国が争い続けた経緯の検証と説明が必要だ。
公式確認から60年以上が過ぎても集団訴訟が続く水俣病訴訟の反省が生かされていない。石綿被害の元労働者らは高齢化し、原告の元労働者の7割は、すでに亡くなっている。長きにわたり必要な対応を怠った国の責任は重大だ。
労災保険給付や石綿健康被害救済法による補償なども、あるにはあったが十分ではない。最高裁で国の責任が明確になった以上、政府・与党は被害者の救済の実現に向けて急がねばならない。
判決は昭和50年から平成16年まで、国が事業主に防塵(ぼうじん)マスクの着用を義務づけるなど適切な対応を怠ったことを「著しく合理性を欠く」と断じた。個人事業主の「一人親方」を含む屋内労働者らへの賠償責任も認めた。建材メーカーについては石綿の危険性を建材に表示する義務を怠ったとした。
判決後、与党は被害者1人当たり最大1300万円の和解金を支払う案を策定し、政府と原告側は基本合意した。訴訟負担を考慮した解決金や未提訴の被害者も救済するため、和解金と同水準の給付金を支給する制度を議員立法で創設することを盛り込んだ。今国会で成立させてほしい。
日本では製造が16年に原則禁止となったが、欧米諸国に比べて石綿の規制が遅く、被害拡大の要因となった。石綿は吸い込むと数十年後に肺がんなどを発症し、「静かな時限爆弾」と呼ばれた。
今後、石綿を使った建築物の解体や地震などの被害によって粉塵(ふんじん)が飛散する恐れもある。国には残存する石綿の調査など、安全対策の見直しも求められる。