プロ野球史の〝汚点〟といわれる『江川騒動』。だが、最後の最後に12球団が「正義」を貫いたことを記憶にとどめていただきたい。
2月5日に阪神が予定していた小林の入団発表をストップしたプロ野球機構は8日、東京・芝の東京グランドホテルで12球団実行委員会を開いた。そして次の3つの事項を決定した。
①江川―小林の交換トレードを白紙に戻す
②巨人から阪神へ、小林は単独トレードとして認める
③江川は開幕(4月7日)以前のトレードを認めない。安芸キャンプに参加させず自主練習とする
これは金子コミッショナーの〝強い要望〟を真っ向から拒否した決定だった。反抗の声は委員会の前に開かれたセ、パ各理事会で上がった。
パ・リーグでは阪急の岡田代表が「小林は阪神へ。江川の巨人入りはストップ。この線で押したい」と近鉄・山崎、南海・森本両代表に声を掛け理事会に提案。一方、セ・リーグも前日の7日、巨人と阪神を除く4球団がパと同じ統一見解を出し、理事会で巨人へ迫っていた。
実行委員会で巨人の長谷川代表は深々と頭を下げた。
「今度の問題では協約の解釈で違反した部分があり、世間を騒がせて申し訳なかった。反省しおわびしたい。江川投手の入団についても委員会の決定に従い、また4月、5月の1軍登録は見送ることにいたします」
会議の終わりに金子コミッショナーが発言を求めた。
「昨年12月の実行委員会で出した〝要望〟の真意が正しく受け取ってもらえず心外だった。しかし、社会やファンに迷惑をかけてすまなく思っている。そこで本日限りでコミッショナーを辞任したいので了承してほしい」
会場にはコミッショナーをねぎらう拍手が起こった。東京・荻窪の自宅に戻った金子は肩の荷が下りたのか笑顔で語った。
「球界のために―とやったことが、巨人のため―と受け取られたのは残念だったね。後任は実業界の人より法律家の方がいいと思うよ」
「空白の一日」の電撃契約から79日ぶりの一件落着だった。
(敬称略)