話の肖像画

演出家・宮本亞門(63)(2)「壮絶な多様性」にチャレンジ

舞台「チョコレートドーナツ」のインタビューで(酒巻俊介撮影)
舞台「チョコレートドーナツ」のインタビューで(酒巻俊介撮影)

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《演出を担当した舞台「チョコレートドーナツ」。昨年12月の東京での公演直前、関係者に新型コロナウイルスの感染者が出て、初日の延期を余儀なくされた》


バタバタと何人かの感染が分かりました。無症状だったり、PCR検査で一度は陰性だったのに後になって発熱した人もいます。一番つらかったのは、感染した人たちでしょう。僕はメールで「絶対に自分を責めないで。『ごめんなさい』と言わないでください。今は気持ちを楽にして治療に専念することです」と伝えました。コロナ禍の中で関係者は、外食にも行かず、まるで「禅僧」のような生活を送っていたのです。本人たちが悪いわけじゃないのに、謝り始めると、かえって周りの疑心を呼びかねませんから。

おかげさまでその後、陰性が確認され「13日遅れ」で東京公演は開催。地方公演もできました。


《同作は、ゲイのカップルが母親に育児放棄されたダウン症の少年を育てるという実話に基づいた米映画の舞台化。宮本さんは、実際にダウン症の青少年たちに出演してもらうことに強くこだわった》


映画でもダウン症の人が出演して、すばらしい演技を見せてくれました。少しずつだけど、ヨーロッパではダウン症の人たちの劇団も出てきています。「多様性を認めよう」という呼びかけは多いけど、実際に人種や言語、思考や症状…。いろんな人たちの違いを認めてゆくのは壮絶なこと。僕はそこに少しでもチャレンジしたかったのです。

プロデューサーは当初、ためらっていました。映画とは違って舞台では毎日毎日、同じことを繰り返さないといけない。「一瞬のカット」では済まないのです。でも僕は、絶対にできると信じていましたよ。

オーディションをやってみたら、もうお祭り騒ぎ。悲しいシーンも楽しくなってしまう。彼らはウソがつけないんです。役者は「演技」をするけど、彼らは周りにどう見られたい、いい演技を見せよう、という気持ちがありません。楽しくて集中してやると、ホントにその世界に入っちゃうんだからすごい。