【Dr.國井のSDGs考(7)】「コロナ後」の実力問われる国際機関 アジア開発銀行駐日代表・児玉治美さん(下) - 産経ニュース

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Dr.國井のSDGs考(7)

「コロナ後」の実力問われる国際機関 アジア開発銀行駐日代表・児玉治美さん(下)

国際協力啓発イベント「グローバルフェスタ」で、アジア開発銀行の活動について来場者に説明する児玉治美さん(中) =2019年9月(児玉さん提供)
国際協力啓発イベント「グローバルフェスタ」で、アジア開発銀行の活動について来場者に説明する児玉治美さん(中) =2019年9月(児玉さん提供)

~置き去りにしない社会を目指して~

「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称・グローバルファンド、GF)」の戦略・投資・効果局長を務める医師の國井修氏が、誰も置き去りにしない社会について会いたいゲストと対談する企画の7回目は、アジア開発銀行(ADB)駐日代表の児玉治美氏を招いた。(下)では、新型コロナウイルスへの対応や今後の課題などについて話し合った。

 

アジア・太平洋に50年以上の経験とネットワーク

國井 ADBは、保健医療分野ではどんなことをやっていますか?

児玉 もともとADBは保健に特化した機関ではなかったんですが、コロナ対策ではADBがやらなくてどうすると立ち上がり、保健への投資はかなり増えました。昨年は支援の総額の12%を保健が占めるまでに増えました。昨年4月には200億ドルのコロナ支援パッケージを発表しました。医薬・医療品や個人防護具の提供、検査体制の充実などの緊急人道支援もやると同時に、中長期的な立場から、コロナによる社会的、経済的影響を緩和するための財政支援も行いました。政府向けの財政支援や民間向け支援も含めて、200億ドルのうち現段階で170億ドル以上がすでに動き出しています。

國井 素早い対応で、規模も大きいですね。

児玉 私自身、国際機関がこれだけの金額をこれだけスピーディーかつ柔軟に出したケースは見たことがありませんでした。火事場の馬鹿力です。この200億ドルとは別に、ADBはアジア・太平洋地域のワクチン支援を行う支援枠組みを作り、90億ドルを拠出しているところです。ADBはアジア・太平洋の各地に、50年以上の経験とネットワークを持っています。もちろんユニセフやWHOとも協力して、重点的に取り組む計画です。

國井 GFもコロナ対応で、世界100カ国以上で10億ドル規模、各国から申請があったら10日以内に審査して承認するという支援をしてきましたが、ADBは桁が違いますね。われわれの場合はグラント(無償支援)で、ADBがもつローン(有償支援)のスキームはないので、その違いはありますが…。

世界中でワクチンが取り合いになる中、人口も多く貧困層も多いアジアではかなりの量のワクチンが必要だと思います。ADBが資金拠出してアジアに製造拠点を設け、いざというときワクチンを作れる体制を作っておくと、将来のパンデミック対応にもつながるのではないでしょうか。ワクチンや治療薬の研究開発や製造にADBのサポートがあるといいなと思います。そうした計画はありますか?

児玉 ワクチンの調達や分配については、ワクチンの適格性の基準をより柔軟にして一定の条件を満たせば支援できるような仕組みを作ったので、かなりフレキシブに対応できるのではないかと思いますが、今回の計画では製造まではカバーしていません。

 

民間の考え方が身に付いている

國井 ADBとは今後も、連携協力を広げていきたいです。ADBの貸し付けに対して、返済や利子の支払いがあるなら借りないという国も多いなか、利子の部分をGFが払って、ADBの融資でマラリアの治療薬や蚊帳を買うなど保健医療への支援を広げるといった革新的な協力を既に議論してきました。最近、私が統括する局に新たにヘルスファイナンス(保健財政)の部を創設したので、ADBとのパートナーシップをより強めていきたいと思います。

児玉 ADBが大きな融資を行うところに、他からグラントを持ってきたり、他の資金ソースとの協調融資はよくやっています。ADBは各国政府が出資して運営されている国際機関ですが、民間セクターに直接の融資を行ったり、民間との協調融資も行ったりしていて、GFと通じるところがあると思います。

ADBでは、公共部門と民間部門がひとつ屋根の下に入っていて、民間企業から来ている人もいっぱいいるんです。民間の考え方が身に付いているので、公的融資に加え、民間セクターの案件も今後ますます増えていくと思います。例えば太平洋の小さな国では、採算性が取れないから民間企業でやるのは難しく、公的機関が長年やっている事業も多くあります。そうした国で長年公共セクターの案件をやってきたADBは、現地の事情が分かっているので、民間セクターへの支援にも入っていきやすいという強みがあります。

國井 それはとても重要です。例えば今や、インドで医療を支えているのは民間セクターです。ただし、民間の医療機関には質的に大きな差があったり、きちんと患者報告をしないために実態がつかめなかったりします。WHOは各国政府からの報告を統計にまとめますが、公共機関からのデータはあっても、多くの民間病院やクリニックからの情報がうまく拾えないんですね。援助も公共機関を通じてなので、サービス提供のうち民間セクターが占める割合が大きな国では保健医療の改善につながりにくいことも多い。

GFでは民間セクターへの支援もやっているので、今後、そのサービスの質やアクセスをどう上げていくか、公的セクターとどうつなげていくかなど、いろいろADBと協力できそうですね。

児玉 インドでは、保健分野で今年だけでもすでに3件の民間向け融資や出資を行っていて、なかには日本のJICAと共同で、全国で人工透析をやっている官民連携の医療機関への出資もしています。感染症だけでなく、糖尿病などの慢性疾患対策にも投資しないといけないということで、それをやっている民間企業を支援する。おっしゃる通り、公共セクターだけではカバーできないですよね。

数年前からADB内での個人や部署の業績の評価の仕方が変わりました。以前はその人が携わったプロジェクトの金額の大きさが評価に直結する傾向がありました。でも、今は金額ではなく案件の数を重要視するようになりました。その結果、保健や教育を含めひとつひとつの案件の規模が小さな分野でも皆が一生懸命になっています。

今まではインドネシアやフィリピンのような大きな国で大規模な地熱発電や鉄道建設をやれば評価が得られたけれど、これからは太平洋の小さな島で、アグリビジネスや水と衛生などの案件を何件もやったチームの業績が認められる。そういうインセンティブも働いて、小さくてもきめ細かいプロジェクトをいろんな国でやろうという流れになっているんです。

 

日本が一貫してリーダーシップを発揮

國井 ポストコロナに向けて、それぞれの国際機関がどう協力しながら世界を立て直していくかが重要になってきます。新たなパンデミックはいつか来ると思っていたけれど、ここまでの規模になるとは誰も思っていなかった。特に今回は、イギリスやアメリカのような感染症の専門家が多く予算も大規模な国自体が流行を制御することができませんでしたからね。いろんな教訓を得ました。

児玉 日本では感染症対策をやっている人は長い間、脚光を浴びていなかったですからね。ここへ来て、皆が自分たちのこととして考えられるようになったのはコロナの影響だと思います。

國井 隠れていた問題が表面化したこともあります。例えばスイスのように世界一安全・安心といわれるような国でも、以前からあった女性への暴力、家庭内暴力が、コロナによって表面化しました。こういう問題を見過ごさず、解決のためにどう取り組んでいくかが、ポストコロナ、ウィズコロナの中で重要だと思います。

児玉 チャンスだと思います。ジェンダー平等への取り組みも日本は遅れているといわれながらも、この1、2年で関心が高まっていて、機関投資家の方々がADBのジェンダーボンドを買ってくださるようになったんです。一度に100億円単位で次々にジェンダーボンドやヘルスボンドに投資していただき、驚いています。以前はグリーンボンドとか、ESGの中でもE(環境)への関心が高かったのですが、Sのソーシャルの部分に投資する機関投資家が増えていて心強いです。意識が変わってきているんだと思います。

ADBは数ある国際機関の中で、日本が一貫してリーダーシップを発揮してきた唯一のメジャーな国際機関。もっと日本の人たちに知ってもらいたいです。

國井 アジアではこれまでさまざまな新興感染症が起きていて、今後もその可能性があります。人口も多くて、経済成長、グローバリゼーションが進む国もどんどん増えてくると思います。そんな中、ADBの存在は重要ですよね。今後、いろいろ一緒にやっていきましょう。今日はありがとうございました。

 

Dr.國井のSDGs考  ゲスト・児玉治美さん