【Dr.國井のSDGs考(7)】優先される「ジェンダーと気候変動」対策 アジア開発銀行駐日代表・児玉治美さん(中) - 産経ニュース

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Dr.國井のSDGs考(7)

優先される「ジェンダーと気候変動」対策 アジア開発銀行駐日代表・児玉治美さん(中)

ギリシャの難民キャンプで子供たちに囲まれるアジア開発銀行駐日代表の児玉治美さん =2016年(児玉さん提供)
ギリシャの難民キャンプで子供たちに囲まれるアジア開発銀行駐日代表の児玉治美さん =2016年(児玉さん提供)

~置き去りにしない社会を目指して~

「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称・グローバルファンド、GF)」の戦略・投資・効果局長を務める医師の國井修氏が、誰も置き去りにしない社会について会いたいゲストと対談する企画の7回目は、アジア開発銀行(ADB)駐日代表の児玉治美氏を招いた。(中)では、ADBの支援の現状や環境問題への取り組みについて話し合った。

 

国連とADBが補完し合って支援

國井 児玉さんが働いているADBの話をお聞きしたいんですが、まずは予算規模や働いている人数を教えてください。

児玉 支援の規模は200億ドル(約2兆円)くらいでしょうか。毎年、そのくらいの支援をしていますが、昨年はコロナがあって、過去最高の316億ドルに達しました。そのほとんどは融資ですが、無償資金協力や技術協力なども行っています。

國井 規模的には、ざっくりいうとWHO(世界保健機関)の10倍、うち(GF)の5倍くらいのお金ですね。国としては何カ国が加盟してますか?

児玉 アジア・太平洋を中心に、ドナー国として欧米も入って、全部で68の国と地域がメンバーです。スタッフは3600人くらいいます。

國井 支援対象国は?

児玉 西は旧ソ連に属していた中央アジア各国から、東は大洋州を入れて、全部で41カ国ですね。

國井 そのうち、低所得国は?

児玉 ほとんどないです。アフガニスタンとネパールくらいでしょうか。

國井 私たち国際機関は国によって貧しさやキャパシティが違う中でプランを立てるわけですが、融資にするか贈与にするか、インフラをやるか、技術供与をするか、ADBはどのようにやっているのでしょうか。

児玉 ADBは案件の多くが数億ドル、場合によっては数十億ドル単位の大きなもので、インフラでは電車やバスなどの都市交通の整備、エネルギー分野では発電所や配電網の建設・改修、水分野では上下水道を整えたりと、大きなプロジェクトをやれるのが強みです。国連機関と、世界銀行やADBなどの国際開発金融機関がお互い補完し合っているのが良いと思います。

例えば国連では、お母さんが無事に子供を産めるように助産師のトレーニングをしたり分娩(ぶんべん)キットなどの物資を提供するのに対し、ADBはそうした支援に加えて診療所や病院を作ったり、すぐに医療機関にかかれるよう道路を作ったりすることができます。

国連は女の子の教育機会を広げるため先生のトレーニングをしたり、女性の雇用機会を創出するために職業訓練をやったりしますが、ADBはこうしたことに加え、学校を建設したり、女の子が川に水をくみに行かなくてすむように上水道を整備したり、子供たちがロウソクやランプの下で勉強しなくてもいいように電気を引いたり、といったことを支援します。

国連の草の根レベルの支援と、ADBのような機関のインフラ支援が補完し合って、うまい具合に途上国への支援が成り立っているんです。

 

各国首脳や大臣に直接、政策提言

國井 確かに妊産婦の死亡を減らすには、安全な分娩ができるように手助けする人材を訓練するのが重要ですが、そうした人がいても出血多量や遷延分娩(せんえんぶんべん、陣痛が来ても長時間生まれてこないこと)などで死亡する妊婦は多い。道路を整備したり、近くに帝王切開などができる医療施設を作る方が死亡率は下がることが多い。また、電気や水がなければ、医療施設を建設してもうまく機能しないので、この両方にアプローチできるADBの役割は大きいですね。

児玉 国全体のシステムづくりに関わる大きなプログラムに携わるので、各国首脳や財務大臣など政府の幹部に直接、政策提言する機会が頻繁にあります。資金提供と政策提言をセットにして支援できるのが良い点です。

國井 国づくりにはお金が必要になる。「この国はこうあるべきだ」といくら議論しても、お金がないと人は動きませんからね。資金が計画通りに使われるか、国のリーダーのガバナンスも問われます。

児玉 私たちは支援の総額の10%以上を使って、途上国の公共部門管理や行政改革などの制度づくりも支援しています。ADBのプロジェクトの中できちんとお金が使われていることを担保するのはもちろん、国全体の税制の改正や、税務行政の強化、インフラや行政サービスの効率的な運営も支援しているんです。

國井 多くの低中所得国で、国家予算の中で保健医療が占める割合がすごく少ないんですよ。本来は国家予算の15%、せめて10%くらい、公的医療機関の整備、医療人材の育成、医薬品、そして国民の自己負担が少なくなるような保険制度などに使ってほしいんですが…。

児玉 どこの国でも、保健省はあまり力がないので、予算がつきにくいんですよね。ADBは昨年9月の総会で、アジア・太平洋から40以上の財務大臣と保健大臣・副大臣が一堂に会するイベントをやりました。国の予算をつかさどる財務大臣と保健大臣が一緒になって、どうやって保健医療に予算をつけるかの議論を深めるためです。

 

アジアの豊かさは一面的 広がる貧富の差

國井 中所得国では特に貧富の差が激しくなっていて、医療施設はあっても医療費が高くて、貧困層がお金を払えない。病気になるとさらに貧しくなる。それでいて低所得国から中所得国になると国際援助が減ってくる。アジアには中所得国が多く、その辺が問題ですよね。GFでも、中所得国が自立して、われわれの援助から卒業するにどうすればよいか、サステイナビリティ・プラニング(自立への計画づくり)の策定とその実行に協力しています。

児玉 確かにアジアには中所得国が圧倒的に多く、貧富の差も多くの国で広がっています。1日3.2ドル以下で暮らしている貧しい人の数も10億人近くで非常に多い。世界の貧困層の半分以上がアジアに住んでいるんです。アジアが豊かになっているというイメージは一面的だと思います。

税収についても、GDP比で15%くらいを確保しないと持続可能な発展のための資金が捻出できないとされていますが、アジアの国の多くは達していません。ADBは最近、域内の国々の国内資金動員を進めるために、租税政策や税務行政に関する知識の共有を目的とする地域ハブを立ち上げました。

國井 次に、気候変動の話を教えてください。地球温暖化によって、蚊の生息域が広がってマラリアなどの蚊が媒介する感染症が増えたり、自然災害が頻発したりして被害も増えています。日本でも台風や異常気象が頻繁に起きていますね。こうした気候変動の問題に対して、ADBが行っていることはありますか?

児玉 ADBが掲げている7つの優先課題の中で、戦略レベルで数値目標を掲げているものが2つだけあります。それは、ジェンダーと気候変動です。2030年までに、ADBのすべての案件の75%以上にジェンダー平等の推進と気候変動・防災対策を盛り込むという野心的な目標を立てているんです。

ADBが承認するプロジェクト文書には、それぞれの案件が気候変動とジェンダーのどこに貢献するかが書いてあります。プロジェクトの結果についてもちゃんと評価して、報告書として公開しています。気候変動対策の中には、温室効果ガスを削減するために太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを推進したり、災害に強いインフラを作ることなど、さまざまな活動が含まれています。 =㊦に続く

 

Dr.國井のSDGs考  ゲスト・児玉治美さん