【Dr.國井のSDGs考(7)】「理不尽への怒り、原動力に」 アジア開発銀行駐日代表・児玉治美さん(上) - 産経ニュース

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Dr.國井のSDGs考(7)

「理不尽への怒り、原動力に」 アジア開発銀行駐日代表・児玉治美さん(上)

アジア開発銀行駐日代表の児玉治美さん
アジア開発銀行駐日代表の児玉治美さん

~置き去りにしない社会を目指して~

世界の紛争地域で支援活動に携わり、現在はスイス・ジュネーブにある「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称・グローバルファンド、GF)」の戦略・投資・効果局長を務める医師の國井修氏。「No One Left Behind(誰も置き去りにしない)」を人生のテーマに掲げる國井氏が誰も置き去りにしない社会を目指すヒントを探る7回目の対談が、アジア開発銀行(ADB)駐日代表の児玉治美氏をゲストに行われた。新型コロナウイルスの影響で、今回は初の「オンライン対談」。旧知のふたりが、国際協力へと駆り立てた原動力や現在の活動、コロナ禍で必要となる支援などについて話し合った。

 

「専業主婦に―」 トイレで悔し泣き

國井 児玉さんは本当にエネルギッシュな人だなと思うんですが、自分を突きあげている衝動は何でしょうか。

児玉 月並みだし、カッコをつけているように見られるかもしれませんが、やはり怒りや正義感でしょうか。世の中の理不尽に黙っていられないんです。根底には、幼少期から日本で経験したジェンダーの不平等があると思います。

私は三姉妹の長女で、父が鹿児島で開業医をしているのですが、周りの人から「おたくは女の子ばかりだけど、誰が病院を継ぐの?」と聞かれ、憤りを感じたのを覚えています。大学院の頃、就職活動中にアルバイトをしていた職場で、上司に「女性は専業主婦になって永久就職するという手もあるからね」と言われ、トイレで悔し泣きしたこともありました。父が留学した関係で、小学校と高校の一部を米国で過ごしたのですが、そのせいもあり、ジェンダーや人種差別、貧富の差などについて考える機会が多かったと思います。

國井 理不尽さへの怒りですか、納得です。小学生にして、米国と日本の違いを知ったのも大きな体験ですね。

児玉 国際協力の現場で仕事をしたいという思いは高校時代ぐらいから持っていました。大学院修了後、永田町で当時参議院議員だった堂本暁子さんの政策担当秘書を務めまして。

國井 その当時から(児玉さんを)知っていますが、本当に怒ってましたよね。「こんな社会じゃだめだ!」って。

児玉 大学院を出てすぐに関わったのが、94年にカイロで開かれた国際人口・開発会議、そして95年に北京で開かれた世界女性会議です。当時は大きな地球規模問題の会議が毎年のようにあって、国際的な対話の中に身を置き、採択される文書に自分が書いた文言を盛り込むことができたときは、非常にやりがいを感じました。

國井 あのカイロ会議は歴史を作りましたから、重要な役目を果たしましたよね。小さい頃から夢や目標を持てたのは幸運なことですが、それを努力しながら着実に現実に変えていった。誰もができるわけではないです。

児玉 國井さんがユニセフに入られた頃、私は国連人口基金(UNFPA)に入りました。どちらも同じように思春期保健やリプロダクティブ・ヘルス/ライツなどを扱う国連機関なのに、置かれている立場は全然違います。ユニセフが扱う子供の話に異議を唱える人はおらず寄付も集まりやすいのに対して、UNFPAは家族計画や避妊など政治的、宗教的にデリケートな問題に関わっています。そのためブッシュ政権の米国からは資金もストップされ、オバマ政権になって再開、トランプ政権でまたストップ、そしてバイデン政権で再開といった具合です。国会議員やNGOを巻き込んでいかないと資金調達が難しい機関で、私としては血が騒ぐ。怒りをパッションに変えていける現場でした。

 

永田町、25年たってもまったく変わらない

國井 確かに、それはユニセフとUNFPAで大きな違いがありますね。政治的、宗教的にデリケートな部分でも、世界の女性の命や権利を守るには進めなければならない。でも米国で政権交代が起きるたびに一喜一憂しなければならない。

怒りは大きな原動力になりますが、男性や関心のない人にも参加してもらえるようになるには、怒りだけではだめですよね。例えばエイズの問題であれば、若い女性の感染がとても高いですが、それを解決するには男性の理解や協力が必須です。例えば北欧も元はバイキングの国で男性の権利が強い国でしたが、社会が成熟する中で変わっていきました。旧態依然の国では、どうやって変えていったらいいでしょうか。

児玉 用語ひとつをとっても、世の中はだんだん変わっていると思います。昔は女性のエンパワーメントという言葉を使っていましたが、今はジェンダーという言葉が一般化しています。ただ、日本でジェンダーについて発言すると、男性を糾弾しているニュアンスで取られることが多いのは気になります。男性だって、長時間労働せず家事や育児に関わりたい人はいっぱいいます。一家の大黒柱の役割を求められて窮屈な思いをしている男性もいるでしょう。男性も女性も障害がある人もLGBTの人も、人種にかかわらず皆が生きやすい世の中をつくるべきだと言いたいのですが…。

國井 例えば女性議員を増やす話も、日本では進まない。積極的に議員になりたがる女性も少ないと聞いています。地方では女性が立候補しようとすると嫌がらせもあるとか。外国人についてもそうです。議論の中に外国人が入っていないことが多いと思います。これだけ外国人の学生や労働者が増えているのに、大学や地域の将来をどうすべきかというところで外国人の視点が入っていない。日本の多くの人が、今の日本に閉塞(へいそく)感を感じたり、今のままではまずいと思っているようですが、意思決定権のある人の中にどれほど本気で変えようと思っている人がいるのでしょうか。

児玉 そうやって何度もあきれる経験をしながらも、國井さんは日本を変えたいという思いで発信を続けているから素晴らしいと思います。私は問題意識はあるんですが、諦めてしまっているところもあって…。永田町も、私が勤めていたときから25年たってもまったく変わらない。テレビのニュースを見ても、汚職や利益誘導の話ばかり。それ以外にもっと大事なことがあると思います。

 

日本の若者、今は内向きに

國井 海外に長く住んでいるからこそ、日本に対する思いは強いのだと思います。外から見ていて、日本は世界の動きの速さについていけてない。日本には世界に誇る素晴らしいものがたくさんあるのに、人々の満足感や幸福感は低くて、残念、もったいないと感じることも多いですね。

ぼくは未来を構想するときは必ず、その中に若い人たちを入れてほしいと言います。というか、将来を担う彼ら自身が中心になって議論して決定すべきでしょう。逆に、若い人と話をするときは、自分の考えをきちんと持てと言います。多くの課題を抱える日本をどうしたいのか、環境破壊や地球温暖化で悲鳴を上げている地球をどう救っていくのか、自分たちの未来に責任をもって、自らの考えを持ってほしいと思います。課題は多いけれど、テクノロジーの発達を含め、イノベーションは進んでいく。内向きにならず、大きな夢を持ってほしいと思う。

児玉 その通りです。だけど、国際的なマインドを持った若者は世界に出ていってしまって、日本に残らないのではないかと心配です。私自身が日本を去って長く帰ってこなかったですし、日本では若い人たちが活躍できる場がまだ育っていません。頭脳流出しないためには、どうすればいいでしょう?

國井 ぼくはどんどん頭脳流出していいと思っているんです。今は世界のどこにいても、オンラインでつながれるでしょう? 海外で活躍している人たちも日本とつながって、日本の進化や活性化に貢献してほしいと思う。日本人はどんどん海外に出ていって、その経験や知識を日本に還元していってほしい。若い人だけでなくて、内向きで後ろ向きな中高年の人たちにも刺激を与えていってほしいと思います。

児玉 確かに、そう考えると頭脳流出も悪くないかもしれません。でも、昔に比べてそういう若者は少なくなっていますよね。バブルの時代は皆が留学や海外旅行をしていたけれど、今は内向きになっている気がします。日本と比べると、例えば今、多くの中国人が海外に出ていますが、彼らは単に海外に留学するだけではなくて、行った先でベンチャーを起こし、そこに定着して活動している人が多い。日本人は駐在員として3~4年海外勤務してから日本に戻る人が多く、海外にいても日本の方を向いて仕事をしている人もいます。

國井 それは感じますね。でも、柔軟な発想を持った行動力ある若者もいます。単なる援助でなく、アフリカで起業して新たな形の途上国への貢献をしたり、自分も楽しみながら、現地の人のためにもなるようなWIN-WINの関係をつくったりする活動をする人もいます。そんな若者を見ると、未来に希望がもてます。

=㊥に続く

Dr.國井のSDGs考  ゲスト・児玉治美さん