朝晴れエッセー

香りからのメッセージ・5月14日

昨年来のテレワークの影響か、自宅でコーヒーを飲む機会が増えた。

もともとは勧められれば飲むぐらいだったが、気付いてみると、自らミル挽(び)きした豆をドリップして飲み、本を買うまでになった。豆の種類・挽(ひ)き方・水の種類・淹れ方の組み合わせによって、味や香りに幅が広がることを知った。

そんな自分が、生涯でコーヒーに衝撃を受けたことは、2度あった。

一昨年前に出張先のインドネシアで飲んだあの味、そして幼き頃に兄が実験装置のようなサイフォンで淹れたあの香りである。

先日、兄の一周忌を迎えた。4歳上の兄は、当時小学生ながらサイフォンを祖母にねだり、うんちくを語りながら、キリマンジャロやモカなどをたしなんでいた。

あの頃、故郷の福島で豆を売っている店は少なく、わざわざバスに乗って買いに出掛けた。コーヒーのみならず、多方に造詣が深い兄であった。

今となっては、コーヒーの香りが亡き兄を思い出す契機となっている。

かなりの周回遅れとなったが、自分もこの歳にしてその魅力を知ることとなった。

先日の命日に、モカを淹れた。何とも言えない芳醇(ほうじゅん)な香りに、「このモカは…」とあのうんちくがよみがえる。

そして、その香りから「今からでも遅くないぞ」と言われた気がした。

櫛田雅信 48 川崎市高津区