勇者の物語

江川の抵抗「阪神は信用ならない」契約渋る 虎番疾風録番外編225

阪神タイガースからドラフト1位指名された江川卓投手(中央)が初交渉(左は田丸スカウト、右は小林スカウト)
阪神タイガースからドラフト1位指名された江川卓投手(中央)が初交渉(左は田丸スカウト、右は小林スカウト)

■勇者の物語(224)

年が明け昭和54年。阪神と江川の第1回入団交渉が1月7日、東京・芝の東京グランドホテル3階「松の間」で行われた。阪神からは法大OBの小林チーフ、田丸両スカウトが直接交渉にあたった。

最終的に江川が阪神と契約を結んだのはキャンプイン直前の31日。入団交渉は5回以上行われた。ここで前述(214話)の疑問点④を考えてみよう。

<なぜ、江川は阪神との契約を1カ月近くも渋ったのか>

その原因はこの第1回交渉にあった―といわれている。交渉のようすを再現してみよう。

小林「ウチが君を指名したのは阪神に来てほしいからで、それ以外のなにもない。球界の秩序を守るためにもウチに来てほしい」

江川「両先輩にわざわざ足を運ばせて申し訳ないと思っています。しかし僕はあくまで巨人に入りたい。力を買ってくれるのはうれしいですが、阪神に入る気はありません」

小林「君の考えは間違っている。ドラフト制度がある以上、指名された球団と交渉するのがルール。ウチも君が欲しいから指名したんだ」

江川「ここで阪神に入るぐらいなら西武に入っています。何度言われても気持ちは変わらない。たとえ二浪ということになっても…」

小林「もう1年浪人? そのとき巨人は君を1位では指名しないよ。来年のトップは早大の岡田だよ」

江川「巨人へのトレードが前提だから巨人との契約も白紙に戻したんです。それはコミッショナーの指令だと思っています。阪神と契約しろと言われるのなら『必ず巨人へトレードする』という念書をください」

小林「それはできない。ウチはトレードを前提とした交渉はしないからね」

江川「それならボクも絶対に契約しません」―とこんな感じ。

いったん契約を結んでしまえば阪神は「江川はウチのもの」と主張し、巨人とのトレード交渉も主導権を握って法外な見返りを求める。阪神側の上から目線の交渉姿勢に、巨人も江川も「阪神は信用ならない」と強烈な不信感を抱いた。それが長引いた理由―といわれている。(敬称略)

■勇者の物語(226)

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