日本の未来を考える

財政拡大路線への転換 学習院大教授・伊藤元重

コロナ危機による景気の動きは今後、過去に経験したことのないほど激しいものになりそうだ。IMF(国際通貨基金)など諸機関の予測によれば、昨年の世界の経済成長率は戦後最悪のものだったが、今年はその落ち込みを補ってあまりあるほどの回復となりそうだという。新型コロナウイルスのワクチン導入が遅れている日本では米国などに比べ回復のスピードは遅いが、それでもワクチン接種が進めばスピードは加速しそうだ。

理由としては、米国などが財政政策を利用した景気刺激に積極的であることが大きい。ウイルスとの戦争によって減速した経済を立て直すためには大規模な投資が必要であるということで、米国ではかつてない規模で財政支出が行われようとしている。欧州でも気候変動対応のための投資を拡大させることを、ポストコロナの経済再生の柱においている。再生可能エネルギーや水素ネットワークなどに膨大な投資が予想される。

こうした大規模な財政刺激は景気を早期に回復させるという意味では歓迎すべきものだが、過度な財政刺激によって公的債務が増えたり、インフレの芽が出てきたりするようだと、将来の経済の動きに不安も出てくる。金利が急速に上昇すれば、株価や不動産価格が下がることにもなりかねない。

ただ、こうした過激な財政政策を多くの専門家が支持していることには注目すべきだ。背景には20年以上続いている長期停滞と呼ばれる現象がある。主要国の経済成長率は低迷を続け、長期金利は下がり続けている。日本でいえば1990年に7%を超えていた10年物国債の利回りがその後ずっと下がり続け、最近ではゼロ近傍で推移している。米欧も同じような状況だ。コロナ危機の有無に関係なく、こうした長期構造的な不況を解消するためには次元の違う大胆な財政支出が必要となる。そう考える専門家が増えてきたのだ。コロナ危機はそうした財政政策の転換の大きなきっかけを提供することになった。気候変動への本格的な取り組みが必要であるという国際的合意は、その財政刺激策が無意味なものに使われない道を提示している。

日本でも、いずれポストコロナの経済再生をどう実現するのかが経済政策の中心課題となってくる。どこまで踏み込んだ財政政策を行うのか。日本も米欧のあとを追うことになれば、民間の大規模な投資を促すような財政拡大路線を進み始めることになりそうだ。もちろん、過大な財政拡張は財政リスクを深刻化させ、インフレを促す結果になりかねないという慎重論もある。これは日本も米国も同様だが、米国では当面はインフレ懸念や財政健全化よりも経済を刺激することに重点を置いているようだ。それだけ長期停滞が深刻であるという見方が強いのだろう。実際、長期停滞が経済に深く根を張って入れば、財政刺激をしても金利は大きくは上がらないだろうという見方もできる。ポストコロナの景気対策で日本がどのような判断をするのか、今後の動きが注目される。(いとう もとしげ)