治安最前線

(5)「想像と準備」胸に完遂へ一丸 警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部の上野良夫副本部長

安全実施に向けた種々の対応や自身の決意を語る警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部の上野良夫副本部長
安全実施に向けた種々の対応や自身の決意を語る警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部の上野良夫副本部長

総務、警務、交通、警備、地域、公安、刑事、生活安全、組織犯罪対策。東京五輪・パラリンピックの安全実施に向けて尽力する警視庁の各部、その全てを兼務し、総合調整役を担う。重責とは裏腹に、「肩書がちょっと長いよね」。温和な笑顔が印象的だ。

■可能性を潰す

平成31年3月から元号をまたいで令和2年2月までの約1年、皇居や首相官邸、靖国神社など管内に重要箇所を数多く抱える麴町署の署長を務めた。着任間もなく皇位継承に伴う一連の儀式が始まり、中でも警備上の難易度が最高レベルとされた「祝賀御列(おんれつ)の儀」に、思いが鮮烈という。

皇居・宮殿から赤坂御所まで約4・6キロの区間、天皇陛下が皇后さまと一緒に車で移動されるパレード。沿道には10万人を超える人出が予想されていた。

パレード前日、署員や機動隊員を引き連れ、担当区域を念入りに調べた。マンホールがあればふたを開けて中の様子を確認。コースにかかる歩道橋周辺や植え込み内など、不審物が仕掛けられる可能性があるポイントを一つ一つ潰した。

3時間に及んだ作業で頭に置いたのは、「想像と準備」という言葉だった。

■総力戦

この言葉は平成28年から2年間出向していた五輪・パラリンピック組織委員会で、元警視総監の同会セキュリティー最高責任者(CSO)、米村敏朗氏から伝えられた。「起こりうる事案を最大限イメージし、具体的な準備につなげること。現在に至るまで、常に心に留めている教えです」

大会を、警察を含む治安機関の総力戦ととらえる。

9都道県に散らばる43の競技会場には漏れなく、地元警察や消防などから派遣された警備責任者がいる。組織委時代、自身が各所を行脚し協力を取り付けた。

地域の情勢を熟知するプロとの連携は、大会の安全運営に不可欠。その思いで交渉を重ねたが、「警察で言えば警部級以上のベテランが、こちらの求める人材。事前準備を含め長期間、現状業務から離脱してもらうことになるわけで、理解を得るのが難しい部分はあった」。1泊2日で福島、宮城、北海道を回ったこともあったが「今となってはいい思い出」と笑う。

■国民へ「協力を」

新型コロナウイルスも安全実施に影を落とす。現職の五輪・パラ競技大会総合対策本部では、すでに感染防止対策のプロジェクトチームを立ち上げ、さまざまな対応を講じている。

夏を見越して、職員のマスクをより通気性の高いタイプにする。警備要員として全国警察から多数の機動隊員らが都内に集結する見込みのため、健康管理の徹底も必須だ。心を砕く点は多岐にわたる。

本番まで2カ月半。「万全を期すのは当然として、一方で、われわれの力だけで乗り切れるものでもない」。世界中の注目が集まる一大イベントの完遂へ、都民、国民一人一人に理解と力添えを呼びかける。

自身を含む全関係者のゴールは、〝何も起こらない大会〟だ。(中村翔樹)

警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部は、東京五輪・パラリンピックの招致が決定した直後の平成25年11月に前身の準備室が設けられ、翌26年1月、20人体制で発足した。副総監を本部長に2人の副本部長(参事官)、総合対策官、警備や交通など各部門ごとの理事官などからなり、現在の人員は約300人。前回夏季大会のリオデジャネイロ五輪では職員を現地派遣し、運営状況などを確認した。大会組織委員会のほか、都や自治体、競技会場の施設管理者など連携機関は数多い。=おわり

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