勇者の物語

舞台作り、阪神「正義」主張 批判回避狙う 虎番疾風録番外編224

球団事務所前で気勢をあげる阪神ファン
球団事務所前で気勢をあげる阪神ファン

■勇者の物語(223)

金子コミッショナーはなぜ、野球協約を破ってまで、キャンプ前のトレードにこだわったのだろう。

12月26日午後8時過ぎ、東京・南荻窪の自宅前で記者団に囲まれた金子はこう語った。

「オレは法律家ではない。実際家だ。結論の出ない答えは出したくない。もし、開幕以降にトレードしたらどうなる? いまはサインプレーが全盛。サインをすべて知ったあとのトレードはナンセンスだ。だからキャンプ前にトレードを-と強い要望を出したんだ」

「指令」から「要望」への変更は、阪神の立場も大きく変えた。拘束力のある指令なら、協約を破ってキャンプ前に江川を巨人へトレードしても「命令だから仕方がない」といえた。だが、要望となれば拒否することもできる。

大阪・梅田の球団事務所前では連日のように熱狂的なタイガースの応援団が『金子コミッショナーの指令粉砕!』のプラカードを掲げ「われわれは全国のプロ野球ファンを代表して、小津社長にけっしてコミッショナーおよび巨人の軍門に屈服することなく、正義の剣を振るってくれることを願っている」と気勢をあげた。

最終的にトレードすることになっても、虎ファンや世間から「阪神の弱腰」「泣き寝入りか」との失笑を買うことだけは避けたい。そのためには舞台作りが必要だった。

(1)江川との入団交渉は協約通り「トレードを前提とした交渉はしない」という姿勢を貫き正義を主張

(2)混乱を防ぐため、球界全体が「トレードしてくれ」というムードになる

(3)世論もやむを得ないと納得

(4)機構を守るため、阪神は泣いて江川を巨人にトレードする

(5)ただしそのトレードも協約通り「開幕以降」を主張する

(6)巨人とは金銭トレードや1軍半の選手との交換では承知しない

これが阪神が描いたシナリオだ。

12月28日、巨人が江川との契約を白紙に戻した。「阪神とのトレード交渉の態勢はでき上がった。あとはスタートを切って走り出すだけ」と長谷川代表。舞台は整った。だが、両球団の思い通りすんなりと事は運ばなかったのである。(敬称略)

■勇者の物語(225)

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