移住してまで打ち込んだ芸術祭 あるアーティストの再出発

移住してまで打ち込んだ芸術祭 あるアーティストの再出発
移住してまで打ち込んだ芸術祭 あるアーティストの再出発
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 回を重ねるにつれて注目度を増している「瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)」。3年に1度開かれるこの芸術の祭典とともにアートを通して地域の活動を再生しようという取り組み「ART SETOUCHI」が行われているが、平成22年の第1回から参加してきた60代の彫刻家が令和3年秋会期での「卒業」を決めた。瀬戸内海の島にほれ込んで移住し、島で使われる「オンバ」と呼ばれる乳母車(手押し車)のアート化に熱意を込めてきたが、病気を経験し、年齢による衰えも迫る中、「発想力がなくなる前に、もう一度自分の作りたいものを自由に作ろう」と新しい創作活動にチャレンジするという。

お年寄りが「使う」アート

 瀬戸芸は香川、岡山両県にまたがり、瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代美術の一大イベント。平成22年に始まり、一昨年開催された前回の第4回には32の国・地域から230組のアーティストらが参加、107日間で約118万人が来場するまでになった。

 高松市出身の彫刻家、大島よしふみさん(66)は瀬戸芸の第1回開催前年に、出品予定者対象の島めぐり「弾丸ツアー」に参加。その際に訪れた男木(おぎ)島(高松市)に運命的な出会いを感じた。

 「高校時代にキャンバスを担いで絵を描きに行ったが、そのときの記憶の中に風景が残っていた。人々がものすごく温かかった」

 瀬戸芸に参加するにあたり「現代アートを島に持ち込んで風景を変えたくない。生活に密着したものを作りたい」と考えていたところ、「オンバ」が目に留まった。

 芸術家仲間4人と「オンバファクトリー」を結成。恵比寿さまを描いたり、家の形にしたり、郵便用や移動図書館など、さまざまにデザインしたオンバをこれまで174台制作。お年寄りが実際に使うことで「動くアート」となった。

 芸術活動のほか、島の漁師に伝わる「躍り込み」という風習の再現などにも尽力。島との関わりは深まり、26年に島に移住した。

触れる芸術作品を

 小さい頃から絵を描くのが好きだった大島さん。高校1年生のとき先輩に憧れて「絵画より1次元多い立体の魅力にひかれた」と彫刻を始めた。大学は彫刻科に進み、卒業後は風や水をテーマに石と金属の溶接・鋳造作品にも取り組んだ。道路や公園などに芸術作品を配するパブリックアートも多数手がけており、香川県の観光キャンペーンキャラ「親切な青鬼くん」の石像や瀬戸大橋記念公園(香川県坂出市)の「KOCHI(東風=こち)」などを制作した。