朝晴れエッセー

年間賞に鈴木真衣子さん(41)の「4本目のリコーダー」

≪文化部長賞≫楕円の面積 渡邊政治(66) 広島市安佐北区

 今はもうなくなったが広島県の江田島に海上自衛隊少年術科学校という学校があった。中学を卒業した生徒を曹候補生として教育する学校である。

 私は一時期そこで数学を教えていた。あるとき、楕円(だえん)の面積の求め方をリポート用紙に書いて提出しなさいと宿題を出した。

 提出されたリポートを読むと、ほとんどが今教えている積分を使っていた。私自身その解答になることを予測していた。

 だがただ一人、円柱を斜めに切ると切り口が楕円になることを利用して解いていた。この解法は中学校で習う相似比が分かっていればできる。積分のような難しい数学を使わなくても良いのだ。

 リポートの名前を見て驚いた。いつも授業中、寝ている奴だ。訓練で疲れているのだろうと注意しても怒ることはしなかった。しかしそれが仇(あだ)になり、数学がからっきしできないようになっていた生徒だ。

 くわしくリポートを読むと解法は実にセンスがあり、素晴らしいものだった。意外に字もきれいだ。和算の大家、関孝和が示した解法と同じだ。

 私は彼を呼び、その解法を褒め、ゆっくりでいいから数学も勉強するように言った。話すと中学時代は数学ができたらしい。「なんだ、数学をできなくしてしまったのは俺のせいかよ」と私が言うと、「そんなことはありません」。人懐っこい目をして言った。

 卒業すると彼は厳しい訓練をこなし、対潜哨戒機の搭乗員(航空士)となった。

 その彼が哨戒機の墜落で、殉職した。その新聞記事を読んだのは県立高校の教員として最初に赴任した学校の職員室だった。

 ※選考委員賞3人の年齢、住所などは掲載時

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