マスク時代に開花する「香りの文化」 香水サブスクじわり人気 - 産経ニュース

メインコンテンツ

マスク時代に開花する「香りの文化」 香水サブスクじわり人気

好きな香水を1カ月分、小さなスプレー瓶に入れて届けてくれる香水のサブスクサービス「COLORIA(カラリア)」
好きな香水を1カ月分、小さなスプレー瓶に入れて届けてくれる香水のサブスクサービス「COLORIA(カラリア)」

 マスク着用が常態化した新型コロナウイルス禍で、香水人気が高まっている。定額で高級品を少量ずつ試せるサービスが若い世代に支持されている。歴史をひもとけば、平安時代に貴族階級を中心にはぐくまれた香りの文化。どのように一般へと広がったのか、その変遷を追った。

 会員数は10倍以上に

 「ステイホームの気分転換に利用する人も多い」

 スタートアップ企業「High Link」のCEO、南木将宏さんは同社の香水サブスクリプション(定額課金、サブスク)サービスに手応えをみせる。

 「1瓶買うと使いきれない場合もあり、季節によって付けたい香りも変化する。気になる香水を1カ月単位で実際につけて生活すれば、自分の好きな香りに出会えるのではないかと考えた」

 平成31年1月から始めたサブスクサービス「COLORIA(カラリア)」は、月額1980円で、高級ブランド品を含む約500種類の中から好みの香水を一つ選ぶと、1カ月で使いきれる量を小さなスプレー容器に入れて自宅に届けてくれる。

 20~30代女性を中心に会員数は昨年4月から1年で約11倍に急増した。

 百貨店でも同様のサービスは人気だ。

 昨年11月、伊勢丹新宿店で開催された香水の催事「サロン ド パルファン2020」。国内最大規模を誇る同店の香水コーナーは連日大勢の人でにぎわった。

 「売り上げは計画に対して4割増。催事期間中のインターネット通販も前年比約5倍と大きく伸びました」と同社担当者。背景には、コロナ禍の影響があるといい、「口紅の色を変えることで楽しんでいた自己表現がマスクでやりにくくなり、代わりに香りを用いる人が増えているのではないか」と話す。

 最初の記録は日本書記

 コロナ禍で楽しむ人が増えている香水だが、日本には古くから、香りの文化が存在した。

 ポーラ文化研究所の研究員、富沢洋子さんによると、香りに関する歴史で、最初の記録と考えられるのは日本書紀だという。淡路島に流れ着いた香木の木片を、人々が朝廷に献上したと記されている。6世紀初めに仏教が伝来すると、仏教寺院の中を清める目的で香が用いられた。

 香りの文化が開花したのは平安時代。当時、身分や階級による装束規定があり、他人に容姿を見せないことをマナーとする慣習のなかで、装束に付けた香りが、個性を表現する手立てだったという。

 「源氏物語にも香りに関する記述が多い。素晴らしい香りを合わせられる人は、知識と財力があると認識された時代だった」と富沢さんは話す。

 室町時代には、香りを鑑賞する日本独自の芸道「香道」が発展。戦国時代には、織田信長が東大寺正倉院の名香・蘭奢待(らんじゃたい)を切り取ったエピソードが示すように、香は政治にも用いられるようになった。

 庶民階級の生活における香りの記録が残り始めるのは、江戸時代後期から。

 「商品名に『香』の字が使われたおしろいや、結った日本髪を固める髪油にも香りが付けられ、生活の中によい香りがあったと考えられる」という。

日本は「香水途上国」

 江戸時代まで、香木など植物に由来する固形や粉末状の香を楽しんでいた日本人。液体の香水は、明治時代になり、欧米から輸入が始まる。当初は高級なものだったので、華族ら特権階級の人々の間で使われ始めた。庶民には手の届かない存在だったが、国産香料の生産もはじまり、次第に「西洋の香り」自体は一般にも広がっていく。

 富沢さんによると、明治20~30年代に、香水に使われる動物性の「麝香(ムスク)入り」とうたった化粧品やせっけんが数多く発売されたそうだ。

 「獣の香りがエキゾチックで新しく感じたのかもしれません」

 それでは、日本で香水が一般に使われるのはいつからか。実は、日本の香水市場は発展途上にあるという。

 香水評論家の平田幸子さんは「コスメ関係の売り上げの半分近くを香水が占める欧米に比べれば、日本はまだまだ香水への関心が低いのが現状」と指摘する。

 コロナ禍で海外旅行ができない今、平田さんが提案するのは、居ながらにして「香りで旅する」楽しみ方だ。

 「例えば、イタリア産レモンを使った柑橘系の香水を使うと、産地のカプリ島に行った気分になる。さまざまな香りで旅情や空間を楽しんでみてはいかがでしょう」 

(文化部 篠原那美)