大阪で流通業界などの取材を担当し始めた令和元年夏、関西の都市部や観光地はいつも訪日外国人客(インバウンド)らでにぎわっていた。
同年秋のラグビーワールドカップに2020年の東京五輪・パラリンピック、25年の大阪・関西万博と大きな国際イベントを控え、ホテルやドラッグストアなどの進出が加速。大阪市内でもスーツケースを引くインバウンドが行き交い、商店街には中国語の呼び込みが響いた。
今、インバウンドに人気だった観光地は軒並み、新型コロナウイルス禍に伴う渡航制限で大打撃を受けている。感染予防のための旅行自粛で国内客も減少。苦境を取り上げるニュースについて、インターネット上で辛辣(しんらつ)なコメントを目にするようになった。
「日本人を軽視したからだ」「自業自得」
こうしたコメントで特に指摘されるのが、インバウンドに人気の飲食店などで提供されていた食事などの価格の高さだ。自分自身も当時「この量で、この価格?」と疑問に感じた記憶はある。
しかし、人気の観光地では多言語対応やトイレの増設など、自らにぎわいを呼び込む努力をしてきた。もちろん、価格を変えずに営業を続けてきた店もある。価格が値上がりしたとしても、インバウンド人気に伴うテナント賃料の上昇や外国語に対応できる従業員を雇用する人件費、インバウンドが利用するキャッシュレス決済の手数料などを反映したものもあっただろう。
インバウンドの経済力を当て込んで不当な価格で商売をする業者も一部では存在したようだが、SNS(会員制交流サイト)などがガイドブック代わりとなる今、公然とぼったくりが横行するような観光地ではコロナ前からインバウンドが離れていたはず。交通機関の混雑など、生活に支障を来す「オーバーツーリズム」は観光事業者だけでなく、行政や市民も交えた議論で解消すべき問題だ。
ある観光地の関係者は、コロナ禍の中で事業を存続させるための方策を必死に模索しながらも、インターネット上にあふれる否定的なコメントに「コロナで大変な思いをしている上に、一部の不当な業者とひとくくりにして批判され、とてもやりきれない」と肩を落としていた。
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【プロフィル】山本考志
平成19年入社。広島支局、大津支局、奈良支局、大阪社会部などを経て令和元年6月から大阪経済部。電機メーカーや流通業界などを担当。