朝晴れエッセー

孫、帰る・5月1日

1年前、桜の花が満開の頃、君はこの田舎にやってきた。

紙おむつを入れた大きなリュックを背負って。コロナ疎開者である。

老老介護と揶揄(やゆ)されるわが家に天使が迷い込んできたような。いやいや、最初は宇宙人か怪獣もどきだった。

歯磨きでお口をイーにしてといえばアーと言う。齢(よわい)86のひい爺さんは、食べるときは席を離れるな! おもちゃを片付けろ! 男はめそめそ泣くな! を連呼。ジイジ嫌い! の応酬が続いた。

しかし、ひい爺さんの膝に乗り「将来は何になりたいですか」と質問し、「う~ん」。その光景に思わず「君の勝ち!」と心の中で叫んだことも。

ごみ収集車のおじさんたちとは、従来のあいさつの中に深い絆を感じ取れた。北にそびえる富士山は君にとっては「富士さん」であり、その姿の見えないときはお出かけか寝んねと捉えていた。

大人の話に耳を傾け、「僕はベビーカーしか持っていないんだよ」の発言は笑いを誘った。三日月を見て、月が壊れたぁ! 雷が鳴ったときは、お月さま、痛いねと心配していた。

そして今年、桜の花がはらはらと散る頃、君は帰京。リュックの中にはもちろん、おむつなんてない。果敢にコロナに立ち向かう後ろ姿と見てとれた。

今年の青葉は、ことのほか目に染みる。

中村昭子 60 静岡県沼津市