朝晴れエッセー

ふるさとの言葉・4月30日

ふるさと熊本県人吉市を流れる球磨(くま)川が暴れ、多くの被害者を出した豪雨から約半年が過ぎた昨年末。正月には帰省する予定でいたが、86歳になる母が電話でこう言った。

「コロナが恐ろしかけん、帰ってこんでよか」。確かに、私自身も列車を乗り換えて帰るのは気が引けていた。一緒に住んでいる妹も「心配せんでよかよ。私がお母さんの面倒ばちゃんと見とるけん」と言ってくれた。

広島に住んで30年近くになる。広島弁とその文化にも慣れて、広島は第二のふるさとになっている。しかし、やっぱり、熊本弁は私の心を温めてくれる。

熊本駅でローカル線に乗り換えて、空いている席に座ると、子供たちの声が聞こえてくる。

「ここ、あいとっと?」

「うんにゃ。こことっとっと」

このやり取りだけで幸せになる。席が空いているのか、取ってあるのかを聞いている。広島では聞けない「とっとっと」が私の心に光を灯す。さらに、きれいな夕焼けが見えると子供が空を指差して言うのだ。

「じいちゃん。夕焼けがきれかね」

すると、焼酎をちびちび飲んでいるじいちゃんが、「うん。ほんなこつ、きれいかあ」と赤ら顔して答える。

今年の夏は帰ろう。コロナ禍でも帰ろう。そして、私が「夕焼けがきれいかあ」と少し大きい声で言おう。

植田敬(64)教員 広島市中区