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3度目「宣言」保ち続けたい無常観 中江有里

3度目の緊急事態宣言発令後、初めての平日を迎え、通勤で混雑する品川駅=26日午前、東京都港区(鴨川一也撮影)
3度目の緊急事態宣言発令後、初めての平日を迎え、通勤で混雑する品川駅=26日午前、東京都港区(鴨川一也撮影)

3度目の緊急事態宣言は突然だった。

昨春の1度目はまだ何もわかっていなかったから、ステイホームに徹し、人との接触を避け、ともかく感染を広げないようにするしかなかった。

しかし今は誰もが手洗い、マスクという基本的な感染症対策を実践している。アクリル板の設置やこまめな消毒、換気、密にならない工夫。私自身、リモートと対面とを使い分けながら仕事を進められるようにもなった。

2度目の宣言は、1度目よりも緩やかに感じられた。飲食店の時短要請が主なもので、街は賑(にぎ)やかだったし、天気に恵まれた週末の昼間の風景は、コロナ禍以前を思い出させるほどの人出だった。

おそらく今回は1度目の宣言の状態へ戻そうとしている。

しかし人の心は、もう1年前に戻らないし、戻したくないのが正直なところだ。

あの時私自身はストレスで体調を崩しても病院に行けなかった。医療現場に負担をかけられないし、もっと重篤な患者もいると考えたからだ。同じように思った方は他にもいるだろう。

小学生の甥(おい)っ子は休校になった1年前のことを今も思い返して悲しんでいる。喉元過ぎれば熱さを忘れる、というが、まだ問題は解決していないし、忘れられるわけもない。

3度目の宣言となった今、1度目と同じように大型店などに休業要請しても、きっと人の流れはとまらない。

感染者が増えた背景には、変異株と呼ばれる感染力が強いウイルスが広がったこともあるだろうし、決して対策を怠ったからではないだろう。

これまで自分が感染を免れてきたのは、たまたまなのかもしれない。通常の風邪もそうだが、誰もがリスクがあるのだから、感染者を責めるのは違う。

ウイルスも人間も自然の一部なのだから、暴走することもあるし、平穏な時もある。自然はコントロールできないのが当然で、それを「無常」とも呼ぶのだろう。

自分を守るため、他者を守るため、もうしばらく無常観を保ち続けようと思う。

【プロフィル】中江有里

なかえ・ゆり 女優・脚本家・作家。昭和48年、大阪府出身。平成元年、芸能界デビュー。多くのテレビドラマ、映画に出演。14年、「納豆ウドン」で「BKラジオドラマ脚本懸賞」最高賞を受賞し、脚本家デビュー。文化審議会委員。