父、師匠の死乗り越え…囲碁十段戦初制覇の許家元新十段、「令和三羽がらす」で台頭

台湾出身で十段4連覇の実績がある王立誠九段を介し高林拓二七段を紹介され、小学校卒業とともにプロを目指し来日。ただ日本での生活はつらかった。中学校では同級生が話しかけてくれるのに、日本語が分からない。刺し身、生卵など火を通していない食物はのどを通らなかった。師匠のもとに集まったプロ志望生との練習対局がわずかな心の救いで、碁と言葉を上達させた。

晴れて15歳で入段。しかし直後に、父を肝臓がんで亡くす。まだ58歳だった。「10年くらい闘病していて、医者に生きているのが不思議と言われたことも。入段するのを待っていてくれたのかな」

令和元年、碁聖の防衛戦の最中に今度は日本の父である高林七段を亡くす。病院嫌いで、転移した大腸がんのため余命わずかとなったとき、自宅に集まった許や富士田明彦七段ら多くの門下生は「許家元は碁聖を獲得したし、みんな強くなってくれた。井山さんのように人間性も磨いて、立派な棋士になりなさい」と告げられた。名伯楽の遺言だった。

今春、歴代最多の棋聖9連覇を果たした井山に対し、日本棋院の小林覚理事長は「棋院97年の歴史で最強」と絶賛する。一方で「若手が井山さんを脅かさないと盛り上がらない」と「令和三羽がらす」に激を飛ばす。

7つのタイトルを、4人で分け合うのは昨春以来。当時、名人と王座を持っていた芝野以外は、井山より年長の羽根直樹碁聖(44)、同世代の村川大介十段(30)だった。許、芝野、一力がそろってタイトルを保持するのは初めて。井山と、一回り下の3人による世代間対決になることが鮮明になった。本格的な下克上時代が始まる。

(伊藤洋一)