勇者の物語

交渉権獲得「しもたぁ!」岡崎代表あんぐり 虎番疾風録番外編218

「江川」を引き当て、あんぐりの阪神・岡崎代表(中央)。右はロッテ・山内監督、左は南海・森本代表
「江川」を引き当て、あんぐりの阪神・岡崎代表(中央)。右はロッテ・山内監督、左は南海・森本代表

■勇者の物語(217)

注目の抽選会はすぐに行われた。南海からは森本球団代表。阪神は岡崎代表、ロッテは山内監督、そして近鉄は山崎代表が前に出てクジ(封筒)を引いた。

「お開けください」の声がかかっても誰も開こうとはしない。早く誰か手を挙げてくれ…とでも言いたそうに顔を見合わせている。世間の声に押されて「江川指名」の名乗りを上げてみたものの、彼らもまた巨人との〝喧嘩(けんか)〟は避けたい。できるなら外れてほしい…それが〝本音〟だった。岡崎代表も同じ気持ち。後年こう回想した。

「ワシの初めての抽選やったのに〝外れてくれ。当たるな〟と祈っとった。変な話や。だから当たった瞬間『しもたぁ!』と言うてしもた。南海の森本さんが隣で笑とったよ」

各球団の1位指名は次の通り

ヤクルト 原田 末記 投 拓殖銀行

広 島× 木田  勇 投 日本鋼管

大 洋  高本 昇一 投 勝山高

中 日  高橋三千丈 投 明大

阪 神  江川  卓 投 作新学院職員

阪 急  関口 朋幸 投 吉田商

近 鉄  登記 欣也 投 神戸製鋼

西 武  森  繁和 投 住友金属

日本ハム 高代 延博 内 東芝

ロッテ  福間  納 投 松下電器

南 海  高柳 秀樹 外 国士舘大

(×は入団拒否)

交渉権をとった阪神はどうすればいいのだろう。平本先輩の意見は単純明快だった。

「堂々と江川と交渉すればいい。応じなければそのときは放っておく。巨人とやり合う必要もない。江川がプロでやりたければ頭を下げてくる。巨人に固執すればプロ野球選手を諦めるだけや」

11年前のドラフトで阪神は「巨人以外は行かない」といっていた田淵(法大)を1位で指名し口説き落とした。当時との違いは巨人がアンフェアな手段で江川を抱え込んだこと。政治家が介入し球界の良識が無視されたこと。

「田淵の場合は少なくとも両親にルールに従う-という良識と子供の幸せを思う親心があった。不当を正常化してまで巨人入りに固執するゆがんだ精神は、けっして〝親心〟とはいわない」

これから始まる激しい取材合戦。編集局に緊張が走った。(敬称略)

■勇者の物語(219)

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