《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(89)の公判が27日、東京地裁(下津健司裁判長)で開かれた》
《この日は被告人質問を実施。飯塚被告は昨年10月の初公判で「心からおわび申し上げる」と遺族に謝罪したものの、一貫して車の故障を訴え無罪を主張している。この日は被害者参加制度を使い、真菜さんの夫、拓也さん(34)も出廷する》
《開廷直前の午後1時25分ごろ、傍聴人の入廷が完了すると、書記官があらかじめ証言台の前の椅子を移動させた。高齢の飯塚被告は、これまでの公判でも車いすで出廷しており、被告人質問で飯塚被告が証言台につくための措置だ。拓也さんは、すでに検察官の横に着席している》
《間もなく、弁護人に車いすを押されてスーツ姿の飯塚被告が入廷。裁判長は「若干早いですが」と断った上で開廷を宣言した。飯塚被告側が事故の被害者らと交わした保険会社が発行する示談書などの証拠採用が決まった後、弁護人が車いすをゆっくりと押し、飯塚被告が証言台の前に移動。裁判長が「質問にはゆっくりと明瞭に答えてください」と飯塚被告に声をかけ、まず弁護側から被告人質問が開始された》
弁護人「現在の年齢は」
飯塚被告「89歳です」
弁護人「事故の当時は87歳でしたね」
飯塚被告「間違いありません」
弁護人「免許を取得したのは」
飯塚被告「1965年です」
弁護人「運転歴は50年近くになるのか」
飯塚被告「53年以上だったと思います」
弁護人「運転をしなかった時期は」
飯塚被告「ありません」
弁護人「日常的に運転していたのか」
飯塚被告「その通りです」
《質問の当初こそ少し声を震わせた飯塚被告だったが、はっきりと聞き取れる低い声で回答を重ねていく。弁護人は、過去に飯塚被告が起こした接触事故について質問する》
弁護人「2001年に交通事故を起こした」
飯塚被告「はい」
弁護人「駐車場から出るときに歩道の自転車に接触した」
飯塚被告「はい、そうです」
弁護人「なぜ接触したのか」
飯塚被告「駐車場から歩道を渡って車道に出るのですが、出口に生け垣があり、左右の見通しが全くありませんでした。自転車が出口に差し掛かって、避けきれずに接触しました」
弁護人「事故の処分は」
飯塚被告「略式処分を受けました」
弁護人「車の運転で、ここ10年で交通違反をしたことは」
飯塚被告「ありません」
《続いて弁護人は飯塚被告の普段の運転状況を確認していく》
弁護人「どのくらいの頻度で運転していたのか」
飯塚被告「週に2、3回です」
弁護人「主な行き先は」
飯塚被告「都内です」
弁護人「運転していたプリウスに故障や不具合は」
飯塚被告「大きな故障はございません」
弁護人「車検や修理は」
飯塚被告「ディーラーのトヨタの会社に頼んでいました」
《弁護人の質問内容は、飯塚被告の健康状況に移る》
弁護人「車いすは普段から使っているのか」
飯塚被告「いえ、使っておりません」
弁護人「なぜ今日は車いすなのか」
飯塚被告「昨年秋から非常に足のふらつきが大きくなりました。歩行器を使えばゆっくり歩けますが、裁判所の勧めもあって車いすにしました」
弁護人「つえをついて歩くことは」
飯塚被告「あります」
弁護人「いつから」
飯塚被告「2018年の春ごろです」
弁護人「なぜですか」
飯塚被告「つまずいて転んだことがあり、安全のために使い始めました」
弁護人「足がふらつくのはどんな姿勢のときか」
飯塚被告「椅子から立ち上がったときと、歩くときです」
弁護人「医師の診察を受けたのは」
飯塚被告「2017年の夏ごろです」
弁護人「診断は」
飯塚被告「原因が分からず、確定診断は出ませんでした」
弁護人「病気の可能性として言われたことは」
飯塚被告「ずっと後になって、パーキンソン症候群の可能性があると言われました」
《飯塚被告は、パーキンソン症候群とパーキンソン病の違いについて、理路整然と説明を始めた。事故当時も「つえを使えば自力で歩けた」と話し、車の運転にも問題はなかったと主張したが、最後に免許の更新をした時期を問われると、「2029年の…」と口にし、再度確認される場面もあった》