話の肖像画

龍谷大学教授・李相哲(1)山の向こうに憧れて

人民公社は15の村で構成されていて、漢族だけの村もひとつありましたが、ほとんどが朝鮮族でした。中国共産党の方針を貫徹するための思想教育を担当する工作隊が村に常駐する時期もあったけれど、やったのは大会を開いて、「地主」だった人を批判するくらい。幼いながらも、平和だった時期とは違う空気は感じましたが、村の人が派閥に分かれて争うようなことはありませんでした。

《それでも中国建国の父、毛沢東への敬意は生活の一部だった》

毛沢東は太陽ですから。村の家はどこも似たような造りで、家に入ると炊事用の釜を備えた小さな厨房(ちゅうぼう)があり、その裏が部屋になっていました。家族はその部屋で朝から晩まですべての生活を営む。そんな簡素な家の壁には必ず毛沢東の写真、もう少し「革命的な家」には「マルクス、レーニン、スターリン、毛沢東」の顔写真が並んだ肖像画が掛けられていました。

一時期は、朝食事をする前と食事が終わったあと、毛沢東の肖像画に敬礼をする儀式もやりました。なぜか、わが家には毛沢東の肖像画はなく、代わりに家族写真などを入れた「額」が掛けられていたと思います。

《文革の惨禍とほぼ無縁だったとはいえ、村には反右派闘争で追放されたモスクワ大学卒業の知識青年がいた。「山の向こう」への憧れをかきたてる存在だった》(聞き手 長戸雅子)

【プロフィル】李相哲

り・そうてつ 1959年、中国黒竜江省生まれ。中国紙記者を経て87年に来日。上智大学大学院博士課程修了。専門は東アジアの近代史・メディア史。98年、龍谷大学助教授。2005年から教授。朝鮮半島情勢を分析した論文や著書も多い。主な著書に「金正日と金正恩の正体」(文春新書)、「北朝鮮がつくった韓国大統領 文在寅政権実録」(産経新聞出版)など。

(2)へ進む

会員限定記事会員サービス詳細