日本語メモ

3億円事件の価値

 所用のため、東京の府中刑務所の北側の道路を車で通った。この道路には昭和43年に発生した3億円事件の現場がある。私は事件当時のことは知らない世代だが、小学生だった50年に公訴時効が成立したニュースは覚えている。

 事件の伏線とされる現金要求、爆弾予告などの多摩農協脅迫事件が43年4月25日から8月22日までの間に9回発生。ということは、最初の脅迫が53年前の今頃になる。12月6日に日本信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)脅迫事件。そして10日、偽白バイに乗った警察官を装った犯人が2億9430万7500円を現金輸送車ごと奪い逃走した。

 正確には「2億9430万7500円事件」「約3億円事件」なのだろうが、産経新聞の表記は洋数字の「3億円事件」。書物などの固有名称関係で「三億円事件」になることもある。

 ややこしいのは、その後に発生した「第2の3億円事件」ともいわれる昭和61年の「有楽町3億円事件」や平成2年の「練馬3億円事件」、平成の3億円事件ともいわれる平成28年の「博多7億円金塊強奪事件」、令和の3億円事件ともいわれる令和元年の「三郷3億6000万円窃盗事件」。「3億円が捕まったよ」と言われて一瞬「えっ?」となったが、実は「有楽町」の事件だったりしたことがあった。

 そもそも昭和43年の3億円は貨幣価値が現在と全然違う。その価値を知る対象としてよく記されるのが当時の大卒初任給。平均約3万円だった。ラーメンは75円、何杯食べられるのだろうか。宝くじの1等賞金は1000万円が登場している。

 3億円事件は2億9430万7500円の語呂で「憎しみのない強盗」ともいわれている。これは保険会社の被害額補填(ほてん)などで国内に直接的な被害者がいなかったことや暴力を振るわず犯行に及んだことから名付けられたものだ。なかには英雄視する人もいる。

 しかしその後、報道被害で自殺した人や捜査の過労で殉職した警察官、7年間に9億円以上の捜査費用がかかっていることなどを考慮するとこの言葉には疑問も感じる。

 ちなみに偽白バイのメガホンには産経新聞の切れ端が付着していた。犯人が存命ならひょっとしてどこかでこの記事を読んでいるかもしれない。(ふ)

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