運転士 追い詰められた末… JR脱線事故16年

 19年6月に航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委員会)がまとめた脱線事故の報告書は、事故原因について、運転士が伊丹駅のオーバーランで日勤教育を受けさせられることを懸念し「注意が運転からそれた」可能性を記載した。

VR技術を導入も…

 事故の反省を踏まえ、JR西は28年4月から乗務上のヒューマンエラーを懲戒対象から外し、ほかにも仮想現実(VR)技術で危険性を具体的に学べる設備をつくるなどしてきた。

 だが、なぜこうした対策を導入したのかについて社員の理解が薄れてしまえば、「安全のため」という言葉だけが、かつての日勤教育のようにまた独り歩きしかねない。前例のない災害が毎年のように起きる時代、決められた対策やルールにどう向き合うかが鍵となる。想定外の状況下では、ルールに縛られず、それを定めた趣旨を理解して臨機応変に対応することが求められるからだ。リスク管理に詳しい立教大の芳賀繁名誉教授は「『安全にルールを破る』ために、その本質を理解することが不可欠」と指摘する。

 鉄道輸送に対する目下の脅威は他と同じく新型コロナウイルス。JR西の昨年4~12月の売り上げは前年同期比で44%減、約1620億円の赤字となった。まさに想定外。「安全最優先は変わらない」(長谷川社長)が、収支の悪化が設備投資や事業の取捨選択にどう影響し、それがどう安全管理に跳ね返るか。脱線事故当時は利益重視の姿勢が、過密ダイヤや自動列車停止装置(ATS)の整備遅れといった問題を生んでおり、楽観はできない。

 「失敗を過度にとがめる社内風土では社員が萎縮する。社会から何を求められているかを認識し、それを実現するために行動する社員を後押しする必要がある」。芳賀氏は、一人一人が高い職業意識を持つことでしなやかな現場力が培われ、ひいては失敗を防ぐことにもつながるとする。

脱線車両の車掌と指令員の会話

 毎年4月25日が近づくとネットで話題になる文書がある。脱線事故の車掌と指令員の通話記録を反訳した事故調査報告書の「付図(ふず)31」。車掌は指令員に事態を説明できず、後続電車の運転士が通話を引き取ったその場面には、簡単に「風化」とは言えないほどの迫真性がある。

  指令員「当該列車の運転士はおらんか」/後続運転士「ぼくもさがしてるんですけど」

  「いないの」/「いないんですよ。もう電車がグシャグシャで、どこが先頭車両か分からないんですよ」

  「あーそ、そんなにひどいの」/「もうグシャグシャです」

  「傾いているの」/「いいえ、そういう次元ではなくて」

  「何が原因」/「僕が最初に思ったのは、車と衝突したように思うんですけど、どうも、その、ぶつかった相手の車のようなものがないんですよ、回りに何も」

  「うん」/「電車の残骸だけが」

  「うん」/「散らばっていて」

  「うん」/「線路のフェンスが、フェンスが、あの、物が突き破って、車道の方にも電車が飛び出ているんですよ」

 JR脱線事故から25日で16年。新型コロナウイルス禍で安全管理と記憶の伝承にかげりはないか。岐路に立つ現状を2回にわけて追う。

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