政府が昨年12月半ばまで集中的な新型コロナウイルス対策を訴えた「勝負の3週間」は敗北に終わり、北海道など地方でクラスター(感染者集団)が深刻化していた。有効性が高いワクチンの接種が海外で始まったが、新たな変異株も拡大。日本への上陸は時間の問題で、再び危険水域に突入しつつあった。
師走に入った日本で、新型コロナウイルスの感染状況は厳しさを増していた。深刻度を示す一つの指標である全国の重症者数が12月3日、初めて500人の大台を超えた。各地で医療体制の崩壊に不安を募らせる声が相次いでいた。
大阪モデルの警戒度「赤信号」に
東京都内の感染状況を分析する都のモニタリング会議は3日、「通常医療との両立が困難な状況が生じ始めている」と指摘。大阪府は同日、重症者向け病床の逼迫を踏まえ独自基準「大阪モデル」の警戒度を非常事態の「赤信号」に初めて引き上げ、吉村洋文知事は「医療における非常事態宣言と言えるような状況だ」と危機感をあらわにした。
大都市圏に比べ、医療体制が十分とはいえない地方都市では、さらに事態は緊迫していた。北海道旭川市の基幹病院「旭川厚生病院」では、5日夕までに221人が感染し、病院でのクラスター(感染者集団)としては国内最大(当時)に。鈴木直道知事による災害派遣要請を受け、陸上自衛隊の看護官らが9日から市内の病院などで支援に当たった。
西村康稔経済再生担当相が集中的な対策が必要になると訴えた「勝負の3週間」(11月25日~12月15日)が終わり、厚生労働省に対策を助言する専門家組織は16日、国内の感染状況について「一度高止まりした後に直近で増加に転じ、過去最多の水準が続いている」とする分析をまとめた。これまで大きな感染が確認されていない宮城や広島、福岡などの各県でも感染拡大が起きており、対策の効果が出ていないことは明白だった。
8人会食で首相に批判
社会不安が高まる中、対策を主導すべき政府は、観光支援事業「Go To トラベル」をめぐり迷走した。菅義偉首相が感染の深刻さを認識しながら、トラベルの見直しには消極的な発言を繰り返した。政府の新型コロナ感染症対策分科会が11日、ステージ3相当地域での一時停止を求める提言を行ったのに対し、菅首相はその日のインターネット番組で「考えていない」と明言。ところが、週明けの14日に一転し、28日から翌年の1月11日まで全国一斉に停止すると表明した。
首相自身も行動で批判を招いた。政府は「会食のクラスターの8割以上は5人以上」(西村担当相)として会食自粛を呼びかけていたが、トラベルの一時停止を表明した14日夜、東京・銀座の高級ステーキ店で自民党の二階俊博幹事長、俳優の杉良太郎さんらと計8人で会食していた。首相は16日、「国民の誤解を招くという意味においては真摯(しんし)に反省している」と陳謝し、翌日以降は夜の会食を控えるようになった。
そんな中、日本中を沸かせる快挙があった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」のカプセルが6日、約6年ぶりに地球に帰還し、小惑星リュウグウの試料を持ち帰ることに成功した。
国境を越え拡大する変異株
「第2波」の最中である欧州からも、明るいニュースが世界に発信された。英当局は2日、米製薬大手ファイザーと独バイオ企業ビオンテックが共同開発したワクチンを承認。中国で最初の発症例が確認されてから約1年を経ての実用化はマーケットでも歓迎され、翌3日にニューヨーク市場のダウ工業株30種平均は一時、節目の3万ドルを突破した。そして英国で8日、治験以外では世界初となる接種が始まり、第1号となった90歳のマーガレット・キーナンさんは「ようやく新年を家族や友人と過ごせる」と喜びをあらわにした。
だがその英国から、新たに発見された新型コロナの変異株が国境を越えて広がりをみせていた。ハンコック保健相は14日、急速な感染拡大に変異株が関係しているかもしれないとの見解を表明した。
コロナ禍で激動した2020年も残りわずかとなって、これまでよりも感染力が強いとされる変異株に対する感染防止という課題が各国に突きつけられた。日本も急ぎ対応を迫られることになる。
(26)2020年12月19日~ 東京、感染4桁に 変異株が上陸