勇者の物語

田淵の涙 深夜の通告、悔しさや怒り爆発 虎番疾風録番外編213

トレード通告を受けて、不満を爆発させる阪神・田淵幸一捕手
トレード通告を受けて、不満を爆発させる阪神・田淵幸一捕手

■勇者の物語(212)

今でも球界の語り草になっている11月14日の「深夜のトレード通告」をドキュメント風に振り返ってみよう。

午前0時30分 西宮市神垣町の田淵宅に岡崎球団代表から電話が入る。田淵は外出中だった。

「こちらは新聞記者を全部帰らせました。そちらはまだいますか? 田淵君が帰ってきたら記者たちをまいてホテル阪神に来てください」

午前1時10分 田淵帰宅。「この時間に呼び出して、しかも記者をまけ? 非常識もいいとこだ」と怒りながらホテル阪神へ向かう。

午前1時50分 田淵が大阪・梅田の「ホテル阪神」に到着。12階の「1250号室」に入る。

午前2時10分 筆者もホテル阪神にいた。当時、産経新聞社は梅田の桜橋に本社があり、ホテル阪神まで歩いて5分。「様子を見てこい」と指示されていた。12階の廊下には20人以上のトラ番たちがいた。何人もの記者が代わる代わるドアに耳を押し付けている。

午前2時30分 「バーン」という音とともに田淵が飛び出してきた。一斉に追いかける。筆者も一緒にエレベーターに乗り込んだ。「どこで話します?」と田淵。その顔はこわばり、目は真っ赤。唇は小刻みに震えていた。

午前2時35分 ホテル1階のロビー。ソファに座った田淵を記者たちが取り囲んだ。

--トレード通告か

「そうだ。オレを西武に出すとはっきり言った。こんなタイガースだとは思わなかった。この問題が出て何日たった? その間、球団から何の説明もない」

田淵の口から悔しさや怒り、寂しさが爆発する。

「何が西武で勉強してこい-だ。なぜ、タイガースで教育できないんだ。自分たちが無能だと認めているのと同じじゃないか」

「南海の広瀬は頼りないから預けられない。西本さんは1年限りだからダメ。その点、根本監督はいい監督だから君のためにもなるって。そんな言い方ってありますか? 広瀬さんや西本さんに失礼でしょう」

「ボロボロになってもタイガースで骨を埋めたかった。そのためにボクは10年前に大阪へきたんですよ」

初めて見た主砲の涙。時計は午前3時を大きく回っていた。(敬称略)

■勇者の物語(214)

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