朝晴れエッセー

妻との食事・4月20日

もう11年前のことになる。

妻は、桜が満開になった4月初め、子供たちの中学校の入学式を見ることなく亡くなった。がんの宣告を受けてから約4カ月後だった。

入学式に着ていくように友人がプレゼントしてくれた服を着せて送った葬儀の日は、入学式の前日だった。桜が吹雪のように舞い散っていた。

結婚後、なかなか子供に恵まれなかった。数年間のつらい不妊治療に耐え、妻が妊娠したのは4つ子だった。高齢出産でもあったため、妊娠中の母子のリスク、障害の可能性、養育の困難さなどを考え、減数手術を決意した。

しかし、その日が近づいたとき、妻の体調が悪化して手術ができなくなった。今思うと減数などしないでよかったし、妻が無意識のうちに減数手術を拒否したと思えてならない。

子供たちは超未熟児であったため、産まれてしばらくは新生児集中治療室に入っていた。初めて持つ子供が4つ子だったため、まず1人を家に帰し、少し慣れてから残りの3人を帰すことになった。

子供が帰る前の日、デパートで食事をした。「今度2人で食事できるのはいつだろうね」「そのときは子供たちも大きくなっているよね」と話した。

今、子供たちは成人し、私は3月末に退職して時間は十分にできたが、もう妻と2人で食事をする機会はない。

ただ、妻は本当に子供を望み、産まれた子供たちを心から愛していたので、夫婦2人での食事などはもはや望んでいなかったかもしれない。

伊藤敏孝 62 東京都中野区