朝晴れエッセー

5年ぶり、夫婦の花見・4月18日

桜満開、天気良好。たとえ近場でも花見にぶらっと出かけたいが、老老介護に追われる私にそんな余裕はない。まして当日は要介護で自宅療養中の妻の、整形外科診察の予約日だった。

でも前日は少し余裕を作れた。妻の朝食を用意して買い物に出かけた帰途、自転車で近くの土手の桜の下をさっと通り抜けた。楽しそうにそぞろ歩く高齢ご夫婦も見られたが、病弱そうな奥様を乗せた車椅子を押す背の曲がった老夫らしきカップルも見かけた。

わが家の物置にも手押し式車椅子はほこりを被ったままある。帰宅して外に出してほこりを払った。だが、妻はこの車椅子を嫌う。

車椅子ごと転倒したら、このガラス細工のような体は分解してしまうと怖がる。軽い介護はすでに5年近い。しかし本番はこれから、車椅子の出番もこれからだ。

病院行きの支度を整えた妻の両手をとり、歩き始めた幼児のようなよちよち歩きで引いて、車椅子に誘導。妻は嫌がるが、心を鬼にして押し始める。決意したのか、妻は静かにしている。いつもはタクシーを利用するが、この花の季節のそよ風に妻は身を任せている。

往路、神社の桜を妻はしみじみと見上げた。「春のうららの隅田川…」。歌かつぶやきか、妻のか細いソプラノがそよ吹く風に溶ける。

病院まで13分で着いた。院庭の桜も満開。野鳥のさえずりの中、妻も鼻歌。手をとり合って、5年ぶりの夫婦の花見だった。

佐々木恒男 88 東京都葛飾区