【漫画漫遊】世界は未知で満ちている 「ダンピアのおいしい冒険」 - 産経ニュース

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世界は未知で満ちている 「ダンピアのおいしい冒険」

(C)トマトスープ/イースト・プレス
(C)トマトスープ/イースト・プレス

 子供の頃、英作家デフォーの『ロビンソン・クルーソー』に心ひかれた人は多いだろう。流れついた無人島で創意工夫を重ね、食糧を増やしていく過程が実に楽しい。本作の主人公であるダンピアは、この世界的文学に影響を与えたとされる実在の人物。知らないことで満ちた「新世界」で、ダンピアはさまざまなものを食べ、少しずつ世界を理解していく。

 本作はダンピアが生前に記した『最新世界周航記』を基にした「海洋冒険飯漫画」。時は17世紀、欧州諸国が競って新大陸に進出した時代の話である。私掠船(いわば海賊船)に乗る英国人のダンピアは、ガラパゴス諸島など中南米の生物や植物を手記に収める。時には食べることで生態を理解しようと努める。

 長い航海に食料は欠かせない。イグアナ、コバンザメ、バナナに似た果物「プランテイン」…。ダンピアたちは生きるために狩りをし、おいしく食べようと知恵を絞る。現代人ならこれらの動物を(味はともかく)知っていても、初めて見る船員たちは困惑しきり。いわば怪物を食べるようなもので、この視点の違いが興味深い。迷宮の魔物を食べ進むファンタジー漫画『ダンジョン飯』(九井諒子)の面白さにも通じる。絵もかわいいので読みやすい。

 「未知の南方大陸」など未踏の地にロマンを抱き、アメリカ先住民の文化に心をときめかせるダンピア。本作の魅力は、彼の心の震えを追体験できる点にある。ただし、すがすがしい冒険ばかりではない。戦闘に大嵐、壊血病…と船乗りが命を落とすことも少なくない。それでもダンピアは水平線の先へと進む。家計の事情で学問の道を断念した冒険家にとって、見るものや行く場所の全てが学舎であり、知的好奇心に導かれるまま先へ進むのだ。

 当時の一部の人々が金銀財宝以上に求めたのは「知識」であった。ダンピアが得たものは、デフォーや『種の起源』を記したダーウィンなど多くの知識人に影響を与えたという。<知るってことは 生きる力だから>。現代も世界は知る喜びで満ちている。この春、新たに進学進級した若者たちに特におすすめの作品。既刊2巻。(文化部 本間英士)