朝晴れエッセー

巣立ちの自動巻き時計・4月16日

昨年から延びていた、娘の結婚式の3月20日を迎える間に、長男、次男の就職が相次いで決まった。

結婚式の前夜、夫は家族で泊まったホテルの部屋にみんなを呼び、一人ひとりへの想いの言葉に「良い時を刻んでください」という一言を添えて、腕時計を贈った。

「携帯で見れるから、腕時計は必要ない」と子供たちは言っていたが、夫は、巣立っていく門出だから、どうしても自動巻きでシースルーバックの腕時計を贈りたいと言い、カタログの中から、一人ひとりに似合うデザインを毎晩探していた。

どうして自動巻きなの?と聞くと、自動巻き時計は置いたままだと止まってしまったり、少しずつずれてくるうこともあるけど、巻き直して動かせば、いつでも修正できるだろ? メンテナンス次第では、子や孫の世代まで受け継ぐこともできるよ。シースルーバックで中のゼンマイが見れるのも遊び心があって楽しい! 秒針が刻む振動が心臓の鼓動のようで、人間臭さというか、人の人生と似ていると思うんだ。と言うのだ。

あなたたちの人生も、時々迷って止まったり、道をそれることもあるだろうが、いつだって修正できるんだよ。遊び心を忘れず、楽しい人生を送ってほしいという願いがこもっているらしい。

桜満開の花冷えの朝、「じゃあね」「行ってきます」と大きく振り上げた腕に、新しい時を刻み始めた、きらきらと光る自動巻き時計が見えた。

江藤縁(ゆかり) 54 相模原市緑区