観測史上初めて震度7を2度記録した熊本地震の「前震」から14日で5年。余震への不安から多数の車中泊避難者が出た被災地は、自治体が実態を把握できず、支援が行き届かなかった反省から対策を進めてきた。一方、新型コロナウイルス禍以降、国は全国の自治体に避難所の密集を避けるため知人宅や宿泊施設などへの「分散避難」を促している。車中泊を含め避難所以外にも広がる被災者の支援は、全国の自治体が再考すべき課題といえる。
熊本地震は平成28年4月14日午後9時26分、マグニチュード(M)6・5の「前震」が起き、わずか28時間後の16日午前1時25分、より大きなM7・3の「本震」が発生した。県内の避難所への避難者数は前震直後の4万人台から一時減少したが、本震後には最大で県内人口の1割にあたる18万人に上った。公園や商業施設などの駐車場でも多くの車中泊避難者が見られ、被災者の不安の大きさをうかがわせた。
多くの自治体は当時、指定避難所内での受け入れが前提であり、車中泊避難者への対応を想定していなかった。背景には、車中泊のリスクが災害のたび指摘されてきた経緯がある。狭い座席に長時間座ることで、足の静脈に血栓ができ肺の血管に詰まる「エコノミークラス症候群」の恐れや、水害時には車が浸水する危険もあるからだ。
だが、熊本地震に関して県が実施したアンケートには、避難した人の実に7割が、車中避難を経験したと回答した。「指定避難所に入れなかった」「余震が続き、建物の中より車中が安全だと思った」といった切実な声も寄せられており、コロナ禍も考えれば、被災者が車中泊避難を選ぶ傾向は今後も続くとみられる。車中泊避難者に適切な情報を伝え、安全に避難生活を送れるよう支援することも自治体の役目だろう。
2度の震度7で甚大な被害を受けた益城町(ましきまち)は、新型コロナ禍でさらに車中泊避難者が増えるとみて、昨年から具体的な対策に乗り出した。避難所運営訓練では、車中泊避難者の受け付け名簿も作成。避難者が車中泊を含む避難場所を申告するメールシステムも導入した。担当者は「避難者が集まる場所を把握し、支援につなげたい」と話す。
他地域の災害でも、車中泊避難は行われている。熊本地震の教訓に学び、被災者を適切な支援につなげる取り組みを求めたい。
(社会部 石川有紀)