鑑賞眼

歌舞伎座「四月大歌舞伎」 36年ぶり奇跡の「桜姫」

色々な意味で「奇跡の舞台」と言えるのが、第3部(午後6時開演、17日以降は午後5時45分)の「桜姫東文章 上の巻」。ともに人間国宝の片岡仁左衛門と坂東玉三郎が、今作での共演を36年ぶりに果たした。かつて孝玉と呼ばれ、私設応援団までできた名コンビの代表作が蘇ったのである。ファンの長年にわたる上演要望に加え、コロナ禍による上演形態の変化で、上下2回に分けての舞台が可能となったこともプラスに作用。今回が見納めだろう。2人の驚異的なみずみずしさと美しさに息をのみ、この舞台も後に、伝説的に語られると確信した。

「四谷怪談」などで知られる四世鶴屋南北の作品。歌舞伎が庶民の娯楽だった江戸化政期の、退廃的な空気をよく伝え、際どい濡れ場は赤面してしまうほど濃厚である。上演が途絶えがちだったが1975年、仁左衛門(当時は孝夫)、玉三郎らで上演されると、一気に人気作になった。

今月は発端の「江の島稚児ケ淵」から、「三囲(みめぐり)」まで前半部分の上演で、6月に「下の巻」として後半が同じ配役で上演される。仁左衛門と玉三郎が、36年前と同様それぞれ2役で、集大成の覚悟を見せる。

「江の島稚児ケ淵」では、道ならぬ恋に落ちた僧の清玄(せいげん=仁左衛門)と稚児の白菊丸(玉三郎)が月明りの中、互いを思いやる姿が、絵のように美しい。この心中で死にきれなかった清玄が17年後、「新清水(しんきよみず)」で、白菊丸の転生である桜姫(玉三郎の2役)に再会。その因果に驚愕(きょうがく)しつつも、内なる情熱に火が付き、破戒僧へと堕落していく。華やかな清水の舞台の中心で、腰元らを従える玉三郎のお姫様姿がまぶしいほどのオーラを放ち、客席からため息が漏れる。ここで見せる品格が、後の遊女への転落劇を一層、鮮やかに見せるのだ。高僧になった清玄の、狼狽(ろうばい)ぶりも面白い。

会員限定記事会員サービス詳細