コロナ禍で苦境の業界は再建の神様早川種三に学べ 作家・江上剛さんの新作が話題に

コロナ禍で苦境の業界は再建の神様早川種三に学べ 作家・江上剛さんの新作が話題に
コロナ禍で苦境の業界は再建の神様早川種三に学べ 作家・江上剛さんの新作が話題に
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 新型コロナウイルスの感染拡大で、昨年は飲食業や宿泊業の倒産が相次いだ。中でもインバウンド頼みだった観光地の飲食店やホテルは、入国制限で訪日外国人客の需要が消失したこともあり、厳しい状況が続く。ただ、元銀行員で、このほど『再建の神様』(PHP研究所)を出版した作家、江上剛さんは「どんな状況でも倒産せずに生き残る会社はある。結局、つぶれる会社には、きっかけとなる出来事が起きる前から(何らかの)つぶれる事情がある」と指摘する。

 『再建の神様』の舞台は、福島・会津地方の川の湯温泉「やわらぎの宿」。バブル崩壊で温泉客が激減し、経営破綻しかけた3つの老舗旅館を再建した実話が元になっている。

 物語の核となっているのが、再建の神様と呼ばれた実業家、早川種三(たねぞう)の経営哲学だ。昭和40~50年代に企業の再建に尽力した早川は、「企業が経営破綻するのは従業員が働きにくい環境にあるからだ」と考え、従業員のやる気をいかに引き出すかに心血を注いだ。同書でも、再建請負人となった経営コンサルタントが、3つの宿の従業員を集め、車座になってとことん話し合う場面が出てくる。

 「従業員のやる気を引き出せなければ再建はおぼつかない。また、再建には外部の知恵も必要。とくに地方では、地元の人だけで何とかしようとよそから来た人を排除しがちだが、それではうまくいかない」と江上さん。その上で「何より大事なのが、再建する会社に社会的意義があり、存在する価値があるかどうか。コロナ禍で倒産の危機にある企業は、これらのことをよく考えた方がいい」と話す。

 温泉宿の再建が軌道に乗り始めたころ、東京電力福島第1原子力発電所事故が起きる。この宿では、政府に先駆けて、原発事故の避難者を無料で受け入れる。周りから「放射能を浴びた人が大勢くると風評被害が起こる」などの批判があったにもかかわらず、だ。結果として、この対応が宿の評価を高め、温泉地全体の宣伝にもなった。すべて実際にあったエピソードという。

 コロナ禍で生き延びるにも、こうした先見の明のある対応が必要だろう。江上さんは、松尾芭蕉が人知れず咲く栗の花の美しさを詠んだ「世の人の 見付ぬ花や 軒の栗」の句のように、人とは違う視点を持つことの必要性を説く。例えば今、飲食店やホテルも持ち帰りや宅配の弁当に力を入れるが、食べ終わった後のプラスチックゴミのことを考えているだろうか。

 江上さんは「昔から疫病の流行は人々を苦しめてきたが、昔の人の方が多様性があったと思う。例えば、奈良の大仏建立や祇園祭は疫病退散の願いを込めて行われた。何万人も亡くなる辛い出来事を、希望に変えようとしたわけだ。今はみんな同じ方向を向いてただ怖い、怖いというだけだ」としたうえで、「どんなにつらくても、人には希望を見つけようとする能力がある。絶望するのはまだ早い。視点を変えて、自分たちの何が強みか探してみてほしい」と話している。

(文化部 平沢裕子)