熊本地震から5年、文具店に灯った光 「まだやめない」亡き夫に誓った再開 - 産経ニュース

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熊本地震から5年、文具店に灯った光 「まだやめない」亡き夫に誓った再開

熊本地震で被災した文具店の再オープンを果たした北川裕子さん=熊本県益城町
熊本地震で被災した文具店の再オープンを果たした北川裕子さん=熊本県益城町

 熊本、大分両県で計276人が犠牲となった平成28年4月の熊本地震は14日、「前震」から5年を迎えた。観測史上初めてとなる2度の震度7が襲った被災地では、被災者たちが生活再建に向け、それぞれの一歩を踏み出している。

 前震で経営する文具店を失った熊本県益城(ましき)町の北川裕子さん(60)は今月、同じ場所で店を再開させた。廃業を考えたこともあったが、震災前に亡くした夫との約束や地域への思いが、自らを突き動かす原動力になったという。

 〈文具・はんこ・ゴム印・実印〉〈文具・事務機の東文(とうぶん)堂〉。4月3日、文具店「東文堂」の店先の電飾看板にオレンジの文字が浮かび上がった。自宅も兼ねる店に輝くその文字を「少しでも町が明るくなれば」とほっとした様子で見守る北川さんは「(益城町は)まだまだお店が少ない。人が集まる場所になれば」と力を込めた。

 北川さんは高校卒業後に入社した事務機器メーカーの同僚だった夫と21歳の時に結婚。その後、平成元年4月、2人で町役場前に店を開いた。夫から「一緒にいる時間を増やしたい」と言われたことも背中を押した。地域の人に愛され、商売も順調だった。

 しかし、店を始めて2年足らず、34歳の若さで夫が心臓病で亡くなる。北川さんは幼い2人の子供を育てながら、1人で店を切り盛りした。「夫と2人でつくった店だから」とやめることは考えなかったという。

 27年には自宅を改装して店舗を移転。熊本地震の震度7の「前震」に見舞われたのはその約1年後だった。自宅兼店舗は全壊し、体育館などでの避難所暮らしが始まり、廃業も頭をよぎる中、避難者への対応に奔走する町職員の姿が目にとまる。

 「文房具はいくらでも必要なんです」。情報を伝えるホワイトボードやペンは、いつも店で見ていたものと同じだった。北川さんが店に残った文具を集めて配達すると、「助かります」と感謝された。文具に救われた気がした。

 地震翌年の1月、町内の商店街で店舗を再開させた。商店街も店舗も自身が住むアパートもすべて仮設だったが、「立ち止まってはいけないと思った」と振り返る。

 地元の人たちが訪れ、何気ない会話に笑い、涙する様子に「店の再開で、つながりを感じられる場所ができるかもしれない」と考えると、自身の地域での役割が見えたような気がしたという。将来への不安もあったが、同じ場所での再建を決めた。真っ先に報告したのは写真の中の亡き夫。「まだやめないよ。もう少し頑張ってみる」と話しかけた。

 自宅兼店舗は2年前に完成したが、周辺の整備工事の影響で、待ちわびた再オープンは今年4月となった。店舗の広さは以前の3分の1ほどで、扱う商品数も少なくなったが、店内にはペンやマジック、ノートなどが並ぶ。北川さんは「夫とつくった店です。小さくてもこの場所で、店を再開することに意味がある」と力強く話した。(小泉一敏)